


- 平岩
- 最近、菓子業界でも、「働き方改革」が取り沙汰されていますが、労働環境についてお伺いしたいと思います。今、スタッフの方は何人ですか?
- 和泉
- 販売が4人、厨房スタッフが7人と自分です。
- 平岩
- パティスリーだと、一般的には、厨房面積を広く取ると思いますが、「アステリスク」は、店舗面積29坪強のうち、17:12くらいで売り場がかなり広いんですよね?珍しいと思いますが、さすがに厨房が手狭になってきていませんか?
- 和泉
- もともと職人気質だから、厨房を広く取りたいのを、最終図面が出た時に、逆にした。つくりやすい環境にしたかったし、機材を一杯入れたいというのが職人の思いなんだけど、お客様にとって29坪しかない空間をどう使うかと考えた時に、そうしようと。だから、厨房をガラス張りにしたら、全部が店に見えるのでは・・と考えて。ある意味、「狭い厨房でどこまでやれるか」という、自分自身へのチャレンジでもあった。でも、これがあったから今の売り上げが出せてるのかなと。そうでないと、土日に沢山のお客様が入った時に、外に人が溢れてしまう。
- 平岩
- もっと広い所への移転を考えたりしませんか?
- 和泉
- 手狭だけど、今は広げる時期じゃないなと。破天荒そうに見えて、すごく計算してやってるんだよ(笑)。地元のお客様に「ここから出ていかないでね」と最初に言われたので、それを守りたい。とにかく上原に根付くというコンセプトでやってきたから、自分の欲のために、店舗を大きくして移転したらご迷惑がかかるなと。周囲にもパティスリーがあるし。
それと、まだ人がそこまで育っていない。今やってもスタッフが苦しむだけ。今のスタッフがもうあと3-4人、今のスーシェフ達のレベルまで育った時がチャンス。だから今は我慢しようね、と言ってて。来てくれるお客様に対して、売り上げをキープする。その分、店や商品のクオリティーを上げる。 - 平岩
- 業界では、人手不足。一方では労働時間を守らなくてはいけない、というので、お菓子を簡単にしていく傾向があると思うのですが、「アステリスク」のお菓子は、かなり凝っていますよね。その点は、どのようにお考えでしょうか?
- 和泉
- 2016年の12月終わりに労働基準監督署から指導の連絡を受けたんだよね。SNSとかでなんでもオープンになっちゃったから、彼らはこの業界のこともよく調べていて、「コンクールの練習でも、残業代をつけて」と。彼らも決められてやってる仕事だからどうしようもない。結局、最後は、オーナーシェフとスタッフとの個々の信頼関係ですよと言われて。
普段の仕事量を減らさない分、休みを増やした。定休日の毎週月曜以外に、隔週目安で火曜と連休にして、2017年は月6日休みに。あと、夏・冬・春に思い切って長めの休みを取った。 - 平岩
- 2017年の夏は、8月21日~31日まで休まれましたね。最近、お盆明け以降に、夏休みをこれまでよりも長く取られるお店が、徐々に増えていると思います。「アテスウェイ」の川村シェフもそうされていましたよ。
- 和泉
- 最初は、売り上げが落ちないかという心配はもちろんあって、様子を見ながらだったけれど、休みを増やしても前年以上の売り上げをキープできていたので、これならいけると。休みを増やすのも、長くやればやるほど定着して変更しづらいけど、5年目の今だからできるなと思った。
まとまった休みが取れると、仕事に勢いが出るんだよね。やっぱり、人がつくる菓子だから。 - 平岩
- しっかり仕事もして、しっかり休むという、メリハリが出ますね。働くモチベーション維持の方法を、皆さん考えていらっしゃると思いますが、和泉シェフがスタッフの方を叱る時って、どんな時ですか?
- 和泉
- 同じ間違いを繰り返した時。でも、言う時期を見てる。失敗してすぐは、頭がパンパンで、注意されても受け入れられる状態じゃなかったりするから。自分の目を見てきたとか、今なら受け入れられるタイミングだと思った時に言う。これも、海外で学んだことだな。失敗して材料を無駄にしてしまった分は、原価率に換算して把握させるよ。

- 平岩
- 2017年は、包材やお店のイメージカラーも、徐々に変えていかれましたね。
- 和泉
- 黒、白、シルバーが基調なんだけど、オープンした時は春だったから、グリーンを使って、印象に残そうと。他店が何色を使っているかを見て、上原付近に無い色を使おう、という意識じゃなくて、世の中一般の、アパレルブランドとかが相手だと思ってる。女性は季節ごとの洋服に合わせて、持ち物とか選ぶでしょ。そういうことも意識して、ショッパーも店自体もシンプルに、ロゴも目立たせないようにしてる。
- 平岩
- 「アステリスク」のギフト箱も、季節で色が変わりますね。クリスマスからバレンタインは赤、春はピンク色とか。さらに最近は、ケーキ箱も白から黒に変えられたり、あの、フォークでロゴをつついてるのが可愛いですよね。
- 和泉
- 最近は、和風のパッケージも使っています。和菓子屋の息子だからね。東京オリンピックに向けて、「和」を強めに打ち出してる。
- 平岩
- 「アステリスク」の生菓子のデザインにも、他にない個性が感じられます。最近は、凝った型も色々と出ていて、それらはもちろん面白いのですが、画一化を感じる時もあり・・。ここでは、見たことのないデザインのお菓子に出会えます。
- 和泉
- モールドはかっこいいけど、美味しそう、とはちょっと違うと思うんだよね。手作業を増やしたい。クリスマスのビュッシュのメレンゲきのことかも、手間はかかるけどね。うちは絞りに特徴のある生菓子が多いよ。口金には無限の可能性があると思ってる。動きが出て、自然な感じになるんだよね。高さも出せるし。
- 平岩
- クレームシャンティーやイタリアンメレンゲのデコレーションとか、モンブランとか。この絞りを見ると、アステリスクのお菓子だなと思います。生地や焼き菓子も、粉なども色々と試されて、選んでいらっしゃいますよね。
- 和泉
- この菓子にはこの粉、というのがあって、変えられない。食感と、口どけの最後の一瞬の変化に、それぞれの特徴が出る。日清製粉さんの「エクリチュール」も、ドゥミセックに使ってます。“ほころぶ”ような食感になる感じ。俺はメーカーさんから言われたとおりでなく、あえて違う風に使ってみたり。夜中とかに試作してる(笑)。チョコレートなんかも、値段だけで見てるんじゃなく、どこの工場で製造されてるかといったところまで調べるんだよね。使ってる機械によって品質が変わるから。



- 平岩
- これからのお菓子業界が、どうなってほしいと思われますか?
- 和泉
- この業界は、今、色々と苦しんでいるところもあるけれど・・辛いのは、大手と個人店の中間のところ。特に地方のお店でその傾向が強い。より二極化していってほしいと思う。正直、今の世の中の風潮では、「手仕事の物づくり」で戦後を生きてきた日本が駄目になるなと感じています。この業界に入ってきた若い子達も、夢が持てるようになってほしい。
- 平岩
- ご自身は、今後、何をしていきたいですか?そういえば、2017年は、劇的なダイエットで業界の注目を集められましたね。オーナーシェフになられて、健康維持についても意識されるようになりましたか?
- 和泉
- そう。やっぱり、健康管理することで、美味しく食べたいと思うしね。周囲でも病気したとか色々な話を聞いたりして、自分のつくる菓子は体にとってどうなんだろうと考えた時、添加物とかをできるだけ減らそうと思うようになった。なら、自分自身の体はどうなんだろう?と。で、1月から3か月くらい集中的にトレーニングして、12kgやせた後もリバウンドはしてないからね。体が軽い!
- 平岩
- 私も、和泉シェフには及びませんが、ジムにはずっと通っていて、体調管理には努めています。私は、お菓子の美味しさや魅力を伝えていきたいので、自分自身が美味しく食べて、健康で幸せでありたいと思って。
和泉シェフ、5年後、10年後はどのようになさっているんでしょうね? - 和泉
- 「遊びたい」、と思ってる。人と遊んでいきたい。この店は、いずれスーシェフの小柳とかに任せて、駅前でクレープ焼いてるとか、飲み屋さんやってるかもしれない(笑)。
今はあちこちに行ってるけど、いずれ、そんなに動けなくなる時は来るしね。海外に行かなくても、日本で海外の仕事ができるようなスタイルを考えてる。海外で学校をするというのもあり得るよね。マレーシアとか、日本と法律が違うから、学校でつくった菓子を販売もできるんだよ。お菓子の後進国、と思われているところに、単なるスタイルだけではなく、理論を教えていきたいな。 - 平岩
- 和泉シェフらしいですね。今後も、何をなさっていくのか、楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。


和泉光一シェフ プロフィール
愛媛県生まれ。和菓子職人の祖父と父の影響を受けて育つ。専門学校卒業後、「成城アルプス」に7年務めた後、大阪「花とお菓子の工房フランシーズ」でスーシェフを経て、2000年東京・調布の「サロン・ド・テ・スリジェ」(現在は閉店)のシェフパティシエに就任。2005年「ワールドチョコレートマスターズ」で3位。2006年、2008年アメリカで開催の「WPTC(ワールドペストリーチームチャンピオンシップ)」でチーム準優勝。2012年5月、自店「ASRERISQUE(アステリスク)」をオープン。


ASTERISQUE(アステリスク)
東京都渋谷区上原1-26-16 タマテクノビル1F
TEL:03-6416-8080
営業時間:10:00~19:00(L.O.18:30)
定休日:月曜、火曜不定休(祝日の場合変更あり)
小田急線代々木上原駅から徒歩数分。近隣はもちろん遠方からの来訪も多く、オープン以降、瞬く間に都内屈指の人気店に。入るとすぐに、ガラス張りの厨房が見えるのが印象的。個性ある華やかな生菓子類は、コンクールで培った複雑な構成の品や、素材と製法を吟味し続ける定番品に加え、新作も頻繁に登場します。ギフトBOXの色が季節で変わるなど、トータルコーディネートを意識。新作も交えながら約10数種が並ぶケイク類は、フレッシュな焼き菓子ギフトとして大人気に。従来の常識にとらわれない自由な発想が新鮮なお店です。
平岩
2018年に10回目を迎える「えひめスイーツコンテスト」も、和泉シェフとは第1回目から審査員としてご一緒してきました。愛媛産の苺を使った商品開発もやりましたね。和泉シェフは、この業界の中でも抜きん出て、とても自由にやりたいことをやっている、と周囲から見られている方だと思いますが、表に出ないところで、そのための努力をものすごくされています。周囲にも、実に細やかに気を遣っていらっしゃいますよね。一緒にお仕事をさせていただいたり、取材させていただいたりする機会を通じて、とても責任感の強い方だとも思っています。尊敬していますし、これからもずっと、いちファンですよ。和泉光一が何をしていくのか、見届けていきます。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年12月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

和泉シェフ
理緒ちゃんと最初に会ったのは、「スリジエ」の頃でしょ。店に来てくれてたなという記憶がある。「WPTC」日本予選とか、愛媛の仕事とかでも一緒にやって、10年以上の付き合いか。最近は色々、スイーツジャーナリストのようなお仕事をされている人が増えてきてるけど、それまでになかった仕事を成立させた、この分野のパイオニアだと思ってるよ。だから、取材とか何か話をもらうと、まずは聞くことにしてる(笑)。ちょうど10数年前頃に、国内外のコンクールに取り組んで、2003年のクープ・ド・フランス、2005年のワールドチョコレートマスターズとかの世界大会に出場してきた。コンクールを通じて育ててもらったから、今は、その恩を返す番になったと思ってます。今、この業界は色々と課題を抱えていて、スタイルを変える難しさというのはあるけれど、自分もそれをやってきたし、これからもやっていきます。