

- 平岩
- スタッフが集まりにくい、すぐに辞めていくという問題もそうですが、菓子店には、色々と悩みの多い時代となってきました。
- 川上
- 昔は、「菓子屋はつぶれない」と言われていたけれど、最近、借金を抱えて閉店する店も増えてきた。売り上げが下がったからと社員の給料を下げたら、トラブルになったり・・。独立して失敗するのは、「店をオープンするのが夢」と思ってしまっているから。それはスタートであって、一番難しいのは、継続していくこと。今、「飲食店は10年後には12%しか残らない」と言われていて、そこにケーキ屋も入ってきている。
- 平岩
- ここ1-2年は、知らないうちに閉店されていて、後から伺って驚いたというケースも、以前より増えているようです。
バニラをはじめ、海外からの輸入品や、乳製品なども不足気味だったり、価格が上がったりという悩みもよく聞きます。 - 川上
- 原材料費が上がったから苦しい、というものじゃない。新製品を出せば、値段を上げることはできる。まずは、年1-2度訪れるお客様の訪店スパンを短くして、2カ月に1回来店するお客様にしていくことを狙うこと。
- 平岩
- そのために、具体的にはどのようなことをしていったらいいでしょうか?
- 川上
- たとえば、焼き菓子のレイアウトを変更する。場所とかテーブルの配置を変えるとか、そういったことをまめにしていく必要がある。うちは、以前の店は客単価1,800円だったけれど、こちらの店になって、2,600~2,700円まで引き上げた。今は、スマホでもお菓子が買える時代。だからこそ、わざわざ動いて店に行く楽しみをつくらないと。
- 平岩
- コンビニスイーツのレベルも上がっていて、競合になり得るという話もあります。
- 川上
- プリンを、コンビニと同じような価格で安く売るのはやめました。同じ土俵に乗ってしまうから。「デイリー性」を訴求するのではなく、フルーツをのせて飾ったりして、より高価格にして販売する。皆、コンビニを敵視しているけど、スイーツを食べることを日常的にしたきっかけはコンビニ。うちはお客さんの3割以上が男性だけれど、コンビニスイーツが入口になってスイーツを食べる機会が増え、「たまにもう少し上質なものを食べたいな」と考えるようになって、来店してくれていると思います。
- 平岩
- コンビニとは一線を画す、専門店ならではの付加価値を提供していけたらいいですね。
- 川上
- 近くに食パン専門店が出来て、食べてみたら柔らかくて、利用客の年齢層が高い。「銀座ウエスト」の「リーフパイ」なんかも同じで、パイだけれどやわらかくて口どけよくて人気。そういうのを見ていて、今後、こういう物が必要なのかなと思うようになってきた。以前は、パイは歯応えのあるもので、「歯の悪い奴は食うな!」くらいに思っていたんだが(笑)。シフォンケーキの焼きっぱなし販売をやろうかなと考えたりしています。
- 平岩
- 川上シェフは、お菓子に限らず、色々なものを好奇心旺盛に召し上がって、そこから気づきを得ていらっしゃるのですね。
- 川上
- 自分がお金を使って食べに行っているから、その経験には自信があるよ。たとえば、料理で「甘鯛のウロコ焼き」を食べて、あの食感をお菓子でも表現できないかと思ったり。ジムにも通っていて、夏は週2回、冬も週1回は行っているけど、それも旨い酒を飲むため!
- 平岩
- 同じです。私も、より美味しく食べるために、運動してます・・!
ところで、焼き菓子ギフトに力を入れていらっしゃると、粉に対してはどのようなお考えをお持ちですか? - 川上
- 「エクリチュール」は、サブレに入れたりしています。「スーパーバイオレット」と両方試して、上がりのいい方を使うといった感じ。正直、保管場所の問題もあるので、粉の種類はあまり増やしたくない。あと、25kgの袋は重たいね。女性が持てる重さの粉袋がありがたいな。
- 平岩
- 他店では見られない、オリジナリティある素材を使った焼き菓子もありますね。輪っか形のパイにチョコレートをかけた「リングキャラメルパイ」は、新潟のメーカー「ヤスダヨーグルト」さんの「安田発酵バター」を使ったパイ生地なんですね。デトランプ(粉に水分を加えた生地)も水でなく牛乳で練って折っているそうで、表面はキャラメルでコーティングされ、ザクザクとした香ばしい食感です。
- 川上
- 夏苺なんかも、10月頭くらいには一番高価になるけれど、国産のちゃんとした素材をこだわって使いたいという思いはあります。あと、高くても、タヒチバニラの香りは大好きで、料亭のウエディングとか特別なオーダーが入った時には、やはり使いたい。
- 平岩
- そういったことも、専門店ならではの付加価値につながりますね。



- 平岩
- クリスマス、バレンタイン、ホワイトデーと、冬場に向けてお忙しくなりますね。
- 川上
- 売り上げでは、3月、2月、12月の順に多い。デパートから頼まれるクリスマスケーキも、去年の半分にしました。
- 平岩
- やはり、生菓子よりギフト菓子、という方向性なのですね。
- 川上
- 店頭に並べる生菓子も、今は以前より減らして26-27種類。新作を出したら、代わりに何かを下げます。喫茶も、以前のようなフルサービス形式ではなく、セルフ方式に変えた。
- 平岩
- 「ルーテシア」も変化してきていますが、これからの菓子店や、製菓業界は、どのようになっていくと思われますか?
- 川上
- 5年、10年先が見えず、不安が多い。ケーキ屋さんも減ると思うし、この業界で働く人手も減っていく。毎年を持ちこたえるのがテーマだよね。
- 平岩
- その中で、ご自身がやっていきたいこと、若いパティシエの方々に伝えたいことはありますか?
- 川上
- 社長業って、すごく大変だけれど、色々考えて勉強することができる。たとえば、スタッフの親が病気になったとか、子どもが病気になったとか、そういう時も、どうしたらいいのか考えたり、解決方法を調べたり。少しでも助けることができたら満足を得ることもできるし、社長をやっていてよかった、と思う。
医者や弁護士の知り合いがいると絶対いいよ。それもご縁だけど、紹介できたら、よかったと思えたりもする。
サービス業は、人を喜ばせてこその仕事。売れている店のオーナーは、普段から、人を楽しませるのが上手。これからは、オーナーに魅力がないと、従業員が残らない時代だと思う。 - 平岩
- 川上シェフは、もともと、全く異なる業界からパティシエの道に進まれた方。それもあってか、お話を伺っていても、考え方がとても柔軟でいらっしゃいますよね。オーナーシェフだからこそのやりがいや喜び。これからの行く道を考える若いパティシエの方々には、心に響くお言葉だと思います。今日は、どうもありがとうございました。



川上啓介シェフ プロフィール
1962年、新潟生まれ。1985年、自動車関係の仕事から転身し、23歳でパティシエの道へ。1993年に「ルーテシア」をオープンし、2001年、現在の場所に移転。新潟を代表する人気菓子店として地域に支持されてきたが、さらに2013年には店舗のリニューアルを行い、ギフト菓子にいっそう力を入れるなど、常に時代の変化に合わせた取り組みを行っている。


LUTÉCIA(ルーテシア)
新潟県新潟市中央区上近江3-3-19
TEL:025-288-0007
営業時間:10:00~18:30
定休日:火曜(月1回、不定期で水曜との連休あり)
新潟市中央区内の住宅街の中にあるお店は、一見、菓子店とはわからないような、近代的でモダンな外観が目を引きます。季節ごとの華やかな生菓子はもちろん、バームクーヘン、焼きドーナツ、クロワッサンラスク、円形のふわふわマドレーヌ「ジェノワーズ」、レモンケーキなど、焼き菓子ギフトのバリエーションが豊富。白で統一された箱のデザインもお洒落です。店内奥には、セルフ式のイートイン席もあり、親子連れなど近隣のお客様で賑わっています。
平岩
「ルーテシア」の店名の意味ですが、フランスの自動車メーカー「ルノー」にこの名の車種があり、古代ローマ時代に、現在のパリ周辺を、ラテン語で「ルテティア(Lutetia)」と呼んだことから、「パリ」の意味を込めて名付けられた車だそう。もともと自動車の業界から転身され、車がお好きな川上シェフらしいなと納得しました。
つい数年前まで、ボートや水上ジェットにも乗っていらしたというアクティブな川上シェフ。女性のファッションブランドの名前も、すらっと口にされるのにびっくり!楽しいもの、美しいもの、人を喜ばせ幸せにするものに対して、日頃から関心をお持ちなのですね。お洒落で粋で、男女問わず、スタッフやお客様に慕われている方だなと、改めて感じ入りました。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年8月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

川上シェフ
パティシエは、お菓子だけ食べていても駄目。自分は、飲食に一番お金を使ってる。夏に出してる「スイカのショートケーキ」も、東京・五反田のフレンチ「ヌキテパ」で食べたスイカのコースに触発されたのがきっかけ。独特の大きなカットは、スイカを細かく角切りにしたら無駄が出ないけど、それだと水分が出やすいから。
あと、洋服にも気を使うよ。店の女性スタッフが、お洒落していかなくちゃならないって時に、俺がアドバイスしたり(笑)。 うちは、朝の出勤時間は、男性より女性の方が30分遅いんだけど、それは、メイク時間のためということ。その代わり、起き抜けみたいな顔で来るなよ!と言ってます。お客様と接する時に、きちんとした身だしなみで堂々と振る舞えるようにね。