

- 平岩
- 時代の変化という点では、お店で働く若いスタッフの方々も、昔と変わっている傾向があると思いますが、人材を育てるうえで、どのようなことを心がけていらっしゃいますか?
- 田中
- 1人1人が夢に向かっていけるようにと考えています。入社1年目のスタッフに対しては、入社する1カ月くらい前に、「今週末にお菓子をつくって持ってきて」と言うんですね。8-10人くらいで、うちは女性が多く、男性が1割くらいです。そうすると、それぞれがつくり、PRポイントも考えて持ってくる。
- 平岩
- それは、個性が出て面白そうですね。様々な能力を試されることになって、ちょっと緊張してしまいそう・・!
- 田中
- 以前は、いずれは自分で菓子店をオープンしたいという人が多かったですが、今は減っています。カフェをオープンしたいという人の方が多いですね。
- 平岩
- 今、スタッフの方は何人くらいいらっしゃいますか?
- 田中
- パティシエの仕事も、ケーキにアイスクリーム、チョコレートといくつかに分かれますし、うちは喫茶メニューで料理も出するのでキッチンスタッフ、バリスタ、販売と職種も多いです。社員で40人、アルバイトの方も入れて100人くらい。
- 平岩
- それは大所帯ですね!支店もおありなので、各店舗に店長さんや、厨房があれば製造責任者の方も必要ですし・・。
- 田中
- 勤務年数が長い人だと8-9年。短い人だと3年未満で辞めていく。その中間層が減っていますね。
- 平岩
- 今、パティシエの業界では、人手不足や、人材育成の難しさが問題になっています。田中シェフは、どのように取り組んでいらっしゃるのでしょうか?
- 田中
- 決まった時間内で、1人1人の技術を上げていかなくてはならないという難しさがありますね。うちの店では、1年生は、半年間は、残業は無しで時間内に帰るということにしています。できないことを練習したいという子もいるので、メンター制度として、先輩がつく形にしています。以前は、私が教えたりしていましたが、実際の現場では、先輩と一緒に仕事をしますからね。教える側も、自分でジャッジできるようになることを目指してもらいたい。また、1年生から2年生は、慣らし期間として、販売も経験させます。繁忙期へと向かう、秋からが本番ですね。幸い、ここ数年は就職した子達の定着率も上がっています。
- 平岩
- メンター制度というのはいいですね。パティシエの仕事はチームワークが必須ですし、教えられる側も教える側も、勉強になりますね。そういえば田中シェフは、「パティシエ・イナムラ・ショウゾウ」の稲村省三シェフが会長を務められている「一般社団法人 全日本ヴァンドゥーズ協会」の活動にも賛同されて、積極的に参加されていますよね。
- 田中
- ヴァンドゥーズ(販売員)の仕事というのは、ディスプレイや予算組みも考えなくてはならず、技術職であり、知識も必要。パティシエの1年生よりも必要かも・・。百貨店のバレンタインの予算組みとか、誰でも出来る仕事ではないと思うのですね。とても大事ですし、真剣に育てなくてはいけない人材ですから。
- 平岩
- 田中シェフが「全日本ヴァンドゥーズ協会」にいらっしゃることで、「カフェタナカ」のお店の皆様はもちろんですが、東海エリアの菓子店のヴァンドゥーズの方々も、講座や認定試験を受けやすくなっていると思います。


- 平岩
- この「カフェタナカ 稲沢文化の杜店」も、田中シェフにとって新しい試みでいらした訳ですが、ここで目指されたことや、さらにこの先、目指していきたいと思っていらっしゃることについて、お聞かせください。
- 田中
- モーニングの喫茶文化の中で、「コーヒーとトースト」というメニューを提供するのに、これまで、パンは外注していました。ですが、昔は、焼き立てを届けてくれるところがあったのですが、今はそうではなくなってしまいました。 ならば、パンも自家製で、安心安全な、自分達が美味しいと思えるものを出したいと思い、この店の看板商品の一つである「生食パン」を開発しました。そこには、生活に密着した、日常のパティスリーでありたいという思いもあります。
- 平岩
- 「生食パン」は、私もオープン時に伺った際にいただきましたが、中がしっとりもっちり、自然な甘みがあって、お勧めいただいたようにスライスしてトーストしても、よりサックリ軽い食感となって美味しかったです。焼き上がり時間に合わせて行列する人気ぶりですね。
- 田中
- パンも、自分で触ってみると面白いなと。お菓子みたいだと思うこともありますし、やってみると発見がありますね。アイスクリームも同じで、やってみたら面白かったです。
- 平岩
- 「カフェタナカ」さんのアイスケーキは、これまた、お取り寄せでも大人気なんですよね!最初はホールケーキ形のアントルメグラッセのスタイルでしたが、最近、「レガル・ド・チヒロ」と同じ缶入りタイプも登場して、これがまた可愛らしい。ちょっと小ぶりサイズの分量なので、少人数でも食べきりやすいのが、今の時代に合っていると思います。
- 田中
- アイスケーキは2013年頃からですが、2018年から缶入りのアイスケーキを出して、おかげさまでご好評をいただいています。
- 平岩
- さらにこれから目指していきたいこと、また、若いパティシエの方々や、業界に求めたいことはありますか?
- 田中
- 最近は、出産や育児のために一度退職されたけれど、お子さんを預けて、パートで再雇用を希望するという方も増えています。そのように、女性も人生の中でのイベントを長い目で見据えて、取り組める仕事になってほしいと思います。
- 平岩
- パートの場合は、販売の担当として入られているのでしょうか?
- 田中
- 今は、製造担当で1-2歳のお子さんがいらっしゃるスタッフも2人います。時には、預けるところが無く困っているスタッフのお子さんを、会長室、つまり私の父の居るところですが、そこで預かったりすることもあります。現場は綺麗ごとではありませんので・・(笑)。
- 平岩
- まさか、会長室が託児所にもなるとは・・!お菓子業界で働く女性は今後ますます増えていくでしょうし、お子さんがいらしても働き続けられる環境や仕組みづくりが必要ですね。
- 田中
- 私自身の中では、やりたいことをやってきたので、1つ1つを育て、深掘りしていく時期になったと思っています。今は、色々なことをそぎ落としていく時。この新店も、その第一歩ですが、それぞれの店舗についても、順番にゆっくり進めていきたいことがあります。「本物の豊かさとは何だろう」ということを考え、それを実践していきたいですね。
- 平岩
- 職人としても経営者としても、明確な目標をお持ちの田中シェフ。いつもパワフルに活躍されている背中を見て、憧れているパティシエールの方々も、沢山いらっしゃると思います。女性ならではの視点でのお話も色々とお伺いすることができ、これからの菓子業界にとって目指すべきことについて、改めて考えさせられました。今日はどうもありがとうございました。




田中千尋シェフ プロフィール
愛知県名古屋市生まれ。自家焙煎珈琲専門店の娘として生まれ、「父のコーヒーに合うフランス菓子を作りたい」と渡仏して菓子作りを学ぶ。1995年に帰国後、20代でシェフパティシエとなり、パリのカフェのような雰囲気に店舗をリニューアル。その後、JR名古屋タカシマヤ、三重県のジャズドリーム長島、名古屋松坂屋内にも店舗をオープン。「全日本ヴァンドゥーズ協会」の副会長も務め、販売員のスキルアップや、女性が働きやすい環境づくりにも貢献している。


カフェタナカ 稲沢文化の杜店
愛知県稲沢市稲沢町前田255
TEL:0587-21-9700
営業時間:10:00~20:00
※カフェ10:00~19:00(L.O.18:30)
定休日:不定休
本店は、1963年に自家焙煎珈琲専門店として名古屋市内にオープン。フランスで菓子作りを学んだ二代目の田中千尋シェフの帰国後、そのお菓子も評判に。「稲沢文化の杜店」は2018年9月オープンの5つ目の店舗で、「名古屋トヨペット」と「TSUTAYA」との複合業態。看板商品は、田中シェフが長野や岩手、青森の農家を訪ねて出会ったりんごを使うアップルパイ。焙煎室も備え、アップルパイに合う「稲沢ブレンド」のコーヒーも提供。旬の果物のタルトや、パティシエらしいリッチな配合の「生食パン」も人気で、新たなファン層を獲得しています。
平岩
私が主宰しているスイーツの情報サイトの名前が「幸せのケーキ共和国」ですが、名刺にも書いてあるので、よく、目に留めていただきます。いい国にお住まいですねと仰っていただいたりして・・(笑)。「料理ボランティアの会」は、2004年の新潟県中越地震をきっかけに活動を開始し、2007年に正式に発足した団体で、食を通じて被災地の方々への応援を続けています。私も、能登沖地震を受けて、多くの料理人やパティシエの方々が現地で美味しいものを提供された2007年の活動より参加させていただき、現在に至ります。私も、思い立つと行動せずにいられない性格で、それが年々加速度を増して、あちこち飛び回っています。田中シェフを拝見していると、何だか同じ傾向を感じるのですが、さらにパワフル!本当に素敵な女性だなと尊敬しています。またぜひ、お会いしに参りますね!
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年11月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

田中シェフ
平岩さんとの初めてのコンタクトは、うちの商品について、問い合わせを貰ったのだったと思います。「幸せのケーキ共和国」って何だろう?と不思議に思いましたよ(笑)。その後も、「料理ボランティアの会」などでお会いしていて、変わった人だなーと思いつつ、いつも淡々としているなと。今回の新店舗オープンに際して、アップルパイのりんごを探していたので、りんご農家さんもご紹介いただきましたね。早速、お訪ねして、「紅玉」や「ブラムリー」といったりんごを使わせてもらっています。長野の農家さんは、この店の開業前の内覧会の時にもいらしてくださいましたし、平岩さんもオープン時に来てくれて、今回、また取材にと、ありがとうございます。またいつでも、遊びにいらしてくださいね。