平岩理緒さんが迫る「トップパティシエの仕事」

Vol.11 洋菓子マウンテン 水野直己シェフ 先輩方への感謝を胸に、パティシエとして何を伝えるか、どう生きるか?

菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、京都・福知山市「洋菓子マウンテン」の水野直己シェフです。東京で製菓学校の講師を務められていた当時、2007年にチョコレートの世界大会「ワールドチョコレートマスターズ」で日本代表選手として初の優勝を遂げられました。2009年に地元に戻られ、お父様が創業された「洋菓子マウンテン」を継承。今や、全国に多くのファンがいる人気店です。そんな水野シェフに、お店や商品への思い、人を育てるということに対する考えなどをお伺いしました。

前編後編

お店の雰囲気づくりで目指していること

平岩
こんにちは。久しぶりにお店にお伺いできてうれしいです。2016年にこちらに移転されて、クリスマスももう3度目となりましたね。水野シェフには、東京では特に「サロン・デュ・ショコラ」でお会いになるお客様が多く、チョコレートのイメージが強いかもしれませんが、ここに来ると、パティスリーとしての「洋菓子マウンテン」を知ることができますね。
水野
どっちが本当かといったら、こっちなんでしょうね。土日は特に、京阪神から車で2時間くらいかけていらしてくださるお客様も多いです。「ここに来るのが夢でした!」と、サロン・デュ・ショコラなどでうちのチョコレートを食べてくださった方に仰っていただいたりもします。
平岩
思わず時間を忘れるような空間で、ここへ来ると、ケーキをいただきながらゆっくり過ごしたくなります。
水野
2階のサロンの椅子も、王様が座るみたいなイメージで選びました(笑)。お客様同士の距離もゆったりと広く取ってあります。1階のカウンター席で外を見ながらお菓子を食べるのが好き、というお客様もいらして、自分もお気に入りの席です。
平岩
クリスマスやバレンタイン以外だと、どういった時期がお忙しいですか?
水野
お盆やお正月もお客様が多いですね。帰省で福知山に戻ってきて、ご家族で一緒にお茶を飲みにいらしてくださる方などもいらして、嬉しいですね。「毎年、楽しみにしている」と仰ってくださったり、お孫さんを連れていらしてくださったり。父の代から作っているチーズケーキやチェリーのタルトなど、お母様達が食べていらしたお菓子もあるので、形を変えて現代風にしつつも、続けていきたいと思いますね。
平岩
今、スタッフの方はどのくらいいらっしゃるのですか?
水野
製造は自分とスタッフが4人。販売は4人と、うちの母と妻がいて、パート・アルバイトの方も含めるともう少しいます。
平岩
このお店の規模で製造が5人というのは、想像よりも少ないように感じます。
水野
これまでもずっと、この規模の人数でやってきました。10人とかになると、名前が覚えられなくなったりするんですよね。 その中でも、ショコラの仕事が1/3くらいを占めています。ショコラは、夏には売り上げが落ちますが、効率的なアイテムですね。焼き菓子も3割くらいを占めています。
平岩
お店の一画を占めるショコラのセラーも、本当に素敵です。お父様の代から続く「洋菓子マウンテン」とはまたテイストの異なる、水野シェフらしさが表現されていますね。最近は、ショコラを始めようと検討するパティスリーが増えているように思いますが・・。
水野
ショコラをやるには、面積は必要ですが、セラーの空間は、思い切り自分の好きな雰囲気にしていますね。
クリスマスケーキなんかは、無理はしないことにしています。福知山はそこまで大きな都市ではないので、この町で必要とされる分だけ作ればいいかなと。
お正月のガレット・デ・ロワなどもそうですが、うちのは、年末の帰省時期に合わせて買っていかれるお客様も多くて、中には、ご家族で召し上がるのに3台も買っていかれるという方もいらっしゃいます。これも、続けているうちに売れていくようになったんです。2018年に新作で出した「ベラベッカ」のチョコレートバージョンも、続けていこうと思っています。発酵生地にショコラを入れて作りました。
平岩
テリーヌショコラのような四角いベラベッカは、口コミで評判になりつつありますね!
新作のお菓子は、やはり全て水野シェフが考えていらっしゃるのですか?
水野
初めは自分が作りますが、それを皆に食べてもらって、意見をもらったりして調整していきます。誰もがいずれ二番手になるだろうし、自分は、スタッフ達の間にあまり入りすぎないようにしていますね。入るとチームのバランスが崩れるんですよね。敢えて距離を置くようにしています。
平岩
ちなみに、商品開発における粉選びについてのお考えは?
水野
スーパーバイオレット」を主に使っています。粉は保管場所も取るので、あまり色々な種類を使うよりも、自分がいなくても安定したものを作れるように、と考えています。

スタッフの働き方について思うこと

平岩
水野シェフは、外のお仕事でお店を空けられることも比較的多いと思いますので、任せられるようにするというのは大切ですね。お店に入ったスタッフの方は、どのようにキャリアを積んでいかれるのですか?
水野
初めは販売からスタートします。「3年は短い。4-5年はいなさい」と言っていますね。その後は、次のステップに行った方がいいと勧めます。自分も色々なお店や国へ行って働いたので、色々と吸収してほしいと思っています。
平岩
ここから巣立っていかれたスタッフの方も、次第に増えていますか?
水野
独立した元スタッフもいますし、垣本シェフの「アッサンブラージュ・カキモト」に行ったり。元スーシェフが、間もなく2019年に東京の浜町にオープンするホテルに併設されるビーントゥーバーのチョコレート店のシェフに就任したりしています。
うちに来るのは、チョコレートをやりたい人、コンクールに挑戦したい人が多いですね。コンクールは大変だけれど、やるからには中途半端にはせずに取り組んで、結果を出しなさいと勧めています。一年前からやっていかないと、勝っても負けても、得られるものが無いと言っています。田舎なのでハンデもありますが。
平岩
水野シェフご自身が、コンクールに打ち込んでいらっしゃいましたものね。最近は、労働時間を短縮しなくてはいけない状況の中で、コンクールに出るのが難しくなっているとも言われていますが・・。
水野
うちは、8時出勤で10時開店。18時半閉店です。2時間、集中してやれば、朝出しもちゃんと間に合う。コンクールで培われる集中力は、仕事の中にも生きてきます。
平岩
お休みもしっかり取れるようにされているのでしょうか?
水野
やっぱり冬は忙しいから、夏はゆっくりさせてあげたい。地方から来ているスタッフも多いから、帰省もできるようにね。夏休みとは別に、研修旅行という名でグアム旅行に連れていったりもしてますよ。
平岩
わぁ、それは皆さん嬉しい!いい息抜きになりますし、親睦が深まりそうですね。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年11月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

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