

- 平岩
- 水野シェフが、これまで、特に影響を受けていらした方々についてお聞かせいただけますか?
- 水野
- 「ワールドチョコレートマスターズ」で優勝したのが29歳の時でした。その後、30歳で福知山に戻り、もう10年が経ちました。生い立ちからずっと、色々な方にお世話になってきましたし、家族に支えられてきたと思います。
師匠と思っているのが、まずは父で、それから、最初に働いた東京の石神井の「お菓子の家ノア」の山下忍社長。それから、吉祥寺のレストラン「パリジェンヌ」の増井錠治シェフ。あそこで料理も好きになりました。フランスで働いたルレ・デセール店の「Le Trianon ANGERS」のオーナーMichel Galloyer(ミッシェル・ガロワイヨ)氏。それに、「パリジェンヌ」によくいらしていた帝国ホテルの村上ムッシュにご紹介いただいた、二葉製菓学校の加藤信先生。「ワールドチョコレートマスターズ」出場後、伊勢丹の「サロン・デュ・ショコラ」への参加のお声がけがあって、当時はまだ学校にいたのですが、加藤先生には「いいよ」と言ってもらって、色々と守ってもらいましたね。 - 平岩
- 「アステリスク」の和泉光一シェフの存在はいかがですか?
- 水野
- 和泉さんは、その人柄に魅せられましたね。「ワールドチョコレートマスターズ」というコンクールを通じて出会った人ですが、本戦に向けて準備を重ねていた当時、調布の「サロン・ド・テ・スリジェ」にいらしたので、二葉製菓学校まで、よく原チャリを飛ばしてアドバイスに駆けつけてくれました。「誰かのために、これだけ時間を使える人がいるんだ・・」と感動しましたね。一緒に仕事をしたことはないですが、波長が似ているんですよね。
- 平岩
- そんな先輩方との出会いを受けて、水野シェフが、若い方々や、この業界に伝えたいメッセージはありますか?
- 水野
- そうですね・・正直言うと、「ない」んです。若手が育っていくのを見るのは楽しい。自分が昔、製菓学校時代に教えた元学生がメディアに登場したり、雑誌の特集で一緒に並んだりしているのを見ると、「立派になって・・」みたいな感じです(笑)。
ただ、人は、それぞれのベースでやらなくてはいけないもの。コンクールをやる人もいれば、やらない人もいます。スタッフと皆で飲んだりもしますが、結局、自分には、「人に迷惑をかけてはいけない」くらいしか、教えることがない。お菓子屋さんは、自分のことだけではなく、家族との時間も持たないと意味がないと思う。ちなみに、飲み会は男女で分かれていて、うちの妻が「女子会」を担当しています。 - 平岩
- これから、パティシエがどのように働くかということを、今一度、考えていかなくてはならない時代ですね。
- 水野
- 売れる物を開発していく、というのが本当にお菓子屋さんらしいのか?と思うんです。自分が最初に触れたお菓子屋さんは、そうではなかった。もっと、お客様との関係を近いものにしたい。それを目指していかないと、これからの菓子店は、呑み込まれてしまうだろうなと思います。
先日、フランス菓子に詳しい知り合いのお客様から、りんごを1ケース送っていただいたんですが、これがすごく美味しかった。素材がとてもよいので、フランスで作られていたような、シンプルなタルトにしたいと。数はそんなに沢山できなくても、こういうお菓子をお客様に食べさせてあげたいという感情を大事にしようと、改めて思いました。「りんごから学んだ」感じでしたね。 - 平岩
- なるほど。「チョコレートは採算性がいいからやろう」といった発想ではなく、ご自身が、心からお客様に食べてほしいと思うものを作っていく。それはパティシエにとっての原点ですね。
- 水野
- ただ、お客様に対してリアクションするのではなく、提案していきたいと考えています。マウンテンのショコラの代表作のようになっている「杏と塩」もそうでしたが、その時に、こういうのを食べたいな、と思ったものを、素直に、柔軟に形にしています。今なら、それをスタッフに投げてみて、どうなるかな?と。「俺だったらこうするけどね」みたいに盛り上がりながら、お菓子を作っていきたいなと思います。
- 平岩
- 水野シェフのお菓子は、ショコラも、ガトーも、決して複雑ではなくシンプルで、ほっとするようなやさしさを感じます。気負わないけれど、芯の強さがある。そういうお菓子や、ゆったりと過ごせる温かい雰囲気のお店の中に、水野シェフが先輩方から受け取り、この先に繋げていこうとされている、人を思う気持ちが現れているのだなと思いました。
今日はどうもありがとうございました。





水野直己シェフ プロフィール
1978年、京都府福知山市生まれ。地元の高校を卒業後、1997年にパティシエを目指して上京。2002年からフランスで修業し、帰国して東京の「二葉製菓学校」で講師を務める。2007年「ワールドチョコレートマスターズ2007」世界大会で総合優勝。2009年、帰郷して実家の「洋菓子マウンテン」のシェフパティシエに就任。ベルギーチョコレートのブランド「カレボー®」のアンバサダーも務める。


洋菓子マウンテン
京都府福知山市字猪崎小字山本322
TEL:0773-22-1658
営業時間:10:00~18:30
※カフェL.O.18:00
定休日:水曜
1978年、福知山市内に初代の水野亘氏が開業。二代目の水野直己氏が帰郷してシェフパティシエに就任後、2012年に市内で移転。二度の豪雨被害を受けるも、2016年7月に、現在の場所で営業を再開しました。高台の上に建つ、アールデコ調の装飾をあしらった白亜の建物は、広々とした優雅な雰囲気。1階はパティスリーの売り場と、レンガ造りのセラーのようなチョコレートの売り場「CELLAR DE CHOCOLAT by Naomi Mizuno」に分かれ、庭が見えるカウンター席も。2階はゆったりとした喫茶席で、季節のよい時はテラス席も開放されます。オリジナルのソフトクリーム「チョコマニア」も人気です。
平岩
これまでのインタビューで、一番若いオーナーシェフは「Ryoura」の菅又シェフでしたが、今回、水野シェフが最年少記録を更新されましたよ。若くして、この飄々とした落ち着き感と貫禄はどこから醸し出されるのだろう?といつも思っていますが、お話を伺って、これまで以上に納得できました。
お土産にしたベラベッカは、ショコラとドライフルーツが醸し出す芳醇さが何とも言えませんでした!水野シェフらしいオリジナル品ですね。「サロン・デュ・ショコラ2019」でも、多くのファンの方々が、水野シェフに会えるのを楽しみにされていましたね。確かにちょっと遠いですが、皆さんにも、いつかぜひ、福知山のこのお店にいらしていただきたいと願います。「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」のシェフに就任された村田さんも、師匠のお越しを楽しみにされていましたよ!
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年11月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

水野シェフ
わざわざ取材に来てくれてありがとう。東京から来てもらうにはちょっと遠いからねぇ・・。
インタビューの時に食べてもらった、カレボー社の「ルビーチョコレート」を使ったガトーも、おかげさまで発売以来、人気です。新宿NSビルで開催された「サロン・デュ・ショコラ2019」でも、デザート仕様で提供して召し上がっていただきました。今回のサロン・デュ・ショコラは、元スタッフが独立して開業した「ル・フルーヴ」とも一緒に出店できて嬉しかったな。話していた「HAMACHO HOTEL TOKYO」のチョコレートショップ「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」も、2019年の2月にオープンしました。写真も送ってくれてありがとう。自分も近々、訪ねたいと思ってます。