菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、神奈川県湘南・寒川町「ラメール洋菓子店」の大関博之シェフです。40年近く続く菓子店の2代目オーナーとして、地元と共に歩んでいらっしゃいます。ご自身も数々のコンクールに挑戦されてきましたが、最近は、スタッフの方もその後に続いていらっしゃいます。どのように看板商品を育ててきたのか、どんな思いで人を育成しているのか、今後何を目指されるのかなど、お話をお伺いしました。
- 平岩
- こんにちは、大関シェフ。「ラメール」と言えば「海」の意味ですが、湘南らしく、明るい雰囲気の一軒家パティスリーですね。お客様がひっきりなしにいらして、内観の写真を撮るタイミングが、なかなか難しいです。
- 大関
- 父が創業したのが1981年だったので、店としては38年が経ちました。ここに移転してからは13年です。35周年の時には、OBが企画してお祝いをしてくれました。40周年もそうなりそうです。この10年くらいは、数年に一度くらいの頻度で、スタッフが独立していきます。
- 平岩
- 今、スタッフの方はどのくらいいらっしゃるのですか?
- 大関
- 正社員とパート、アルバイト合わせて30名です。昔は、催事などにも出ていましたが、5-6年前にそれもやめて、一切、他にも卸さないというやり方に変えました。
- 平岩
- 最近は、全般的にそういうお店、外販はしないという方が増えていますね。
クリスマス、バレンタイン、ホワイトデーとお菓子屋さんの繁忙期が一巡しましたが、振り返っていかがでしたか? - 大関
- クリスマスは、お祭りみたいなところがあって、1週間乗り切ろう!みたいな感じがあるよね。最初の頃は、車の誘導員などもいなくて、近隣からクレームがあったりしましたが・・。
- 平岩
- イベントの時に、駐車場不足で悩まれているお店もありますね。こちらは、大丈夫なのですか?
- 大関
- 駐車場は17台あって、向かいの公園に体育館があるから、そこの無料駐車場も200台くらいあるんです。
- 平岩
- それならば全く問題なしですね!
最近は、クリスマスよりも、3月のホワイトデーの方が忙しくて大変だと仰るシェフが多いように思います。 - 大関
- 3月は、ホワイトデー単体では意外と伸び悩みましたが、この1か月間が、1日から31日まで長期戦でツライ!という感じだね。今年は、38年目にしてなお、過去最高益となりました。年度末というのは、色々と人の移動があって、ギフトも動きますからね。寒川町というのは、小さな町ですが、昼と夜の人口が同じくらい。出ていく人と入ってくる人が同じくらいの町なんです。年末も、田舎に帰る人と、この町に帰ってくる人が同じくらいいます。
- 平岩
- このお店にも、4月から新しい社員の方が入っていらっしゃいましたか?
- 大関
- 数名が入社しました。歓迎会なども、もちろんしますよ。これからお店を大きくするつもりは全くないですが、皆が楽しんで出来る環境づくりを目指したいと思っています。確実に時間内に仕事を終わらせ、残りの時間で新しいお菓子を考えるとか、そんなふうにしたい。
- 平岩
- 大関シェフは、様々なコンクールに挑戦され、数々の賞を受賞されてきました。スタッフの方の中にも、コンクールに挑戦される方が出てきていますね。しかし最近、コンクールのために仕事が終わった後に練習するのも残業になる、と考えると、昔に比べてコンクールを目指しづらくなっているという声もあります。
- 大関
- この店は先代がオープンして、自分は東京の店で数年修業して戻ってきました。「洋菓子店」とついた店名も、古めかしくて嫌だなと思った時期もありましたが、今となっては、わかりやすくてよかったなと思います。
でも、実家の店に帰ってきて、最初は思うようにいかないことが多いですよね。だから、この店を2軒目の修業先と考えるようにしよう、と思って。このまま終わってしまいたくないと、コンクールを目標にし始めたんです。でも、初めは全く結果が出ない。それでもめげずにやって、4年目に初めて「東日本洋菓子作品展」に入賞してから、どんどん賞に入るようになっていきました。
コンクールに出したものをそのままお店に出せるので、味覚審査のものか、技術ならマジパン細工と絞って挑戦していました。コンクールは、自分を磨くもの。今のご時世、皆に「やりなさい」とも言えないですが、やりたいというスタッフ達にはやらせてあげたい。 - 平岩
- お店でも、スタッフの方がコンクールで入賞した作品を、商品化して販売していらっしゃいますね。
- 大関
- この店で出すと、もともと、お客様がたくさん来てくださるので、簡単に売れるようなイメージを持ってしまいますが・・。
実際はそうではなく、考えた商品を自分の力で売るためには、様々な能力をつけていかないといけません。
ここ数年、仕事が落ち着いている時期には、スタッフ同士での作品品評会をやっています。皆がいいねというものを商品化するのですが、そういう楽しみがあってもいいですよね。僕自身も、自分が考える菓子のパターンというのが決まってくるので、違うものが出てくるのもいいなと思います。 - 平岩
- それは、やる気のあるスタッフの方にとっては、大いに励みになりますね!
- 大関
- 正直言うと、ナッペを覚えたいとか、そういう気概を持っていない若者もいて、自分も戸惑うことがあります。でも最近は、やりたい子がやればいいのかな、と考えるようになりました。昔のように、お菓子屋さんで働く目標が、「イコール独立」ではなくなっている。そう考えると、ナッペをやりたくないという人は、他のことをやればいいし、その分、輝ける人が他にいればいいと考えるようになりました。
- 平岩
- 確かに今、製菓業界に入ってくる若い方のモチベーションが、シェフ世代の皆様のお若い頃とは変わってきている、というのは、あちこちで伺うお話です。
- 大関
- うちの店にはこの春、製菓学校の卒業生が2人と、高校を卒業した1人が入社しました。昔に比べて女性が多くなりましたね。3人でシェアできる女性用の寮も用意しています。今の若い子は人づきあいが下手なところがありますね。昔は、神奈川県の洋菓子業界の若手の会というのに、100人くらい集まったものですが、今はそういう会に行きたがらない。
うちを含めて、仲のいい5店くらいでスキー旅行を企画して、ゲレンデに連れていったりするんですが、嫌がる子もいますね。でも、いい繋がりができると思うし、そういうきっかけがどこで生まれるかわからない。だから、企画は続けるようにしています。 - 平岩
- 最近は、オーナーシェフが色々企画しても、定休日に皆で外出することになると、「それって休日出勤になりますか?」と言われてしまう、といった話も聞きます。
- 大関
- 深入りはしないようにします。自分から手を挙げてくれたら、引き上げるからねというスタンス。昔は、夏は皆でキャンプに行っていましたが、今は行きたい子だけ一緒に行くようにしました。
社員旅行にもルールがあって、「2期を経て決算を終えた時に前年の売り上げを上回っていて、さらに全員が「行きたい」と言ったら決行する」ということにしています。一昨年は、皆で石垣島に行きましたよ。その幹事も任せたり、今年の新入社員歓迎会の花見の幹事も、やってみなさいと任せたり。ちょっと無理そうでも、あえてやらせたいという気持ちはありますね。 - 平岩
- お店には、パートの方も多くいらっしゃいますね。地元にお住まいの方がほとんどですか?
- 大関
- パートの方は、半分以上が10年以上やってくださっていて、父の代からというベテランの方もいらっしゃいます。アルバイトを3年やってそのまま就職とか、うちで働いているスタッフは、地元の方が多いです。






- 平岩
- これまで、どんなお店や、商品づくりをモットーとしていらっしゃいましたか?
- 大関
- わざわざここへ来てもらえるお店づくりを目指してきました。今は、インターネット社会なので、全国どこのお菓子でも手に入りますが、「来てよかった」「あそこのあれが食べたい」と思ってもらえるようにしたいですね。そのために、毎月、色々なフェアを企画しています。
- 平岩
- お店の入口にも、フェアのカレンダーが掲示してありましたね。
- 大関
- 宣伝も、お店でしかしていません。「お店に来れば来るほど得する」という感じで、コアなお客様を大切にしていきたいですね。フェアの時にケーキを10台買って行かれるようなお客様もいらして、それをあちこちに配ってくださる。宣伝効果抜群でしょう?そういうことを地道に続けて、過去最高益を続けることが出来ています。
店舗展開というのも好きではない。百貨店などから声をかけていただくこともありますが、休業日にしても営業時間にしても、自分の意志で決められないですから、それがストレスになりますね。 - 平岩
- 商品の品揃えについてはいかがですか?
- 大関
- 生菓子、焼き菓子、半生菓子のそれぞれに、看板商品と言える商品を育ててきました。
生菓子は「ラメール」。ショーケースの中にこの菓子が無いと怒られてしまいます。8号サイズを12カットしていますが、一番売れる時は1日1200個くらい売れることもあり、クリスマスケーキでも一番人気です。卵白だけを使った白いスポンジが特徴で、元々、父が作っていたケーキがベースにありましたが、当時はスポンジが固かった。今はふんわり軽い生地で、お客様から「天使のスポンジ」なんて呼んでいただいたりもしています。
焼き菓子は「焼きちょこ」。今から8年前に発売したもので、寒川町の特産品としても認定されました。今、全売り上げの20%を占めるほどになっています。これは、大量生産できるよう、去年の12月に生地を絞るデポジッターと、自動包装機を導入しました。
半生菓子は「スティックキリ」。第3回「キリ®クリームチーズコンクール」で優勝した時の作品です。安定した売り上げで、1日100本から、多い時で400-500本くらい出ますね。 - 平岩
- 売れ筋のお菓子をしっかりお持ちでいらっしゃる、というのは大事な強みですね。
- 大関
- 他のお菓子は、これらの3本柱のお菓子を売るために、どんどん変えてもいいお菓子、と考えています。ある意味で、売れなくてもいいんですが、たとえると、スカイツリーの土台を支えるように、そういうお菓子もちゃんとしていないと全部が崩れてしまう。看板商品があってこそ、他の部分で挑戦も出来るようになるんです。
- 平岩
- 最近、何か挑戦されたお菓子はありますか?
- 大関
- 「神奈川県地域資源活用事業」に申請をして、県産の苺、トマト、オレンジなどを使った「大地のスポンジ」という焼き菓子を、2018年の春から発売しています。外に目を向けると、行政とかとも繋がっていきますよ。下のスタッフ達にも教えてあげたいですね。申請書類を書くのも上手くなりましたよ!(笑)
- 平岩
- それは初めて知った事業です。1年の開発期間を経て、認定事業として店頭販売されるに至ったのですね。5か年計画で、4年目には自店舗以外での発売、5年目に事業の結果評価を受ける、という内容だとか・・。
確実に利益が出る商品があってこそ、新しいことに挑戦できるのですね。 - 大関
- 昨年、「キリジャム」というのもつくりましたよ。なかなか好評です!
- 平岩
- ミルクジャムのクリームチーズ版のような、ディップ状のジャムですね。大関シェフといえば「キリ®」というイメージがあってこそですね。
- 大関
- うちの子供もまだ小さいので、お菓子屋さんをやりたいな、夢があるなと思ってほしいという気持ちがあります。オーナーとしても、父親としても、挑戦してみたいと思わせる店にしてきたいし、そういう姿を見せたい。「跡を継いでくれない」と文句を言うのではなく・・。自分も、子供の事業参観とか、しっかり行っていますし、なおかつ店もうまく行っていればいいですよね。




※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年4月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。
