平岩理緒さんが迫る「トップパティシエの仕事」

Vol.12 ラメール洋菓子店 大関博之シェフ スタッフの個性と自律性とを尊重する意味。そこから地元密着の菓子店を目指すとは?

前編後編

この先に目指すことは?

平岩
これからの菓子店は、労働時間の短縮や人手不足、消費税率引き上げなど、色々な意味で課題が多く、どのようにやっていけばいいのか、迷っている方が多いと思います。大関シェフは、この先、どのようにしていきたいと思われますか?
大関
「最後は夫婦2人だけの店で好きなお菓子を作って・・」というのは、安定した土台が無いと不可能ですよね。
まずは、店の休業日を増やしていきます。以前は、営業は休み無しで、交代制で休んでいました。でも、このやり方は、人が減ると効率が悪くなってくるんです。
休みが増える分、売り上げが下がることについては、スタッフ達にも、どうやったら穴を埋められるの?と宿題にして、一緒に考えよう!という方向に持っていっています。フェアも、単なる割引販売といった内容ではなく、定価で販売しつつ、その時でないと買えないものを提案できるように考えていますね。
平岩
皆さんで一緒に解決しようと取り組んでいらっしゃる。とても前向きですね!
大関
一昨年、営業時間が夜20時までだったのを、19時閉店に短縮しました。ということは、年間で約半月分の稼働日数が減る計算になるんです。それでも、ちゃんとペイできています。
平岩
それは凄いですね。これからの菓子店は、売り上げを上げるというよりも、利益を伸ばしていく方向を目指すべきだと聞くことがありますが、まさに、営業時間を減らしつつもちゃんと利益を出すようにされているのですね。
それに、スキーやキャンプに行かれるなど、大関シェフはアウトドア派でいらっしゃいますね。そういったご自身の趣味の時間も大切にされているのですね。
大関
はい。海や山が好きでよく行きますね。若い頃はウィンドサーフィンなんかもやっていましたよ。
平岩
いかにも「湘南」という感じですね!「ラメール洋菓子店」さんは、地域と共に歩んでいらしたお店、という雰囲気が、お店からもシェフからも伝わってきます。
大関
地元の学童保育のおやつにお菓子を出したりもしています。正直、利益にはならないですが、小さい頃にここのお菓子を食べて育った、という記憶って、将来に繋がるでしょう?
平岩
そうですね。親子ともに、或いは三世代でこちらのお菓子を召し上がってきた、というお客様が、この地域にこれからも増えていくのでしょうね。今日、お伺いしたお話から、1店舗主義で地元に根付いてやってこられたお店ならではの強みを色々と感じることができました。どうもありがとうございました!

大関博之シェフ プロフィール

1968年、神奈川県茅ケ崎市生まれ。寒川町の高校を卒業後、東京の製菓学校で学び、都内の洋菓子店で修業後、1992年に戻り実家の店に入社。2005年に代表取締役社長に就任。その間、「東日本洋菓子作品展」「キリ®クリームチーズコンクール」「ジャパンケーキショー東京」「神奈川県洋菓子コンテスト」など国内の数多のコンクールに出品し、優秀な成績を収めてきた。現在は、自店ではもちろん、製菓専門学校の講師を務めるなど、後進の育成に力を入れている。

大関博之シェフ

対談場所

ラメール洋菓子店
神奈川県高座郡寒川町宮山923-7
TEL:0467-74-6141
営業時間:10:00~19:00
定休日:水曜(祝日の場合は翌日)

1981年に先代が開業した当初はJR寒川駅前にありましたが、現在の場所に移転して13年。以前は2階がイートイン席でしたが、最近、包材見本なども揃えたギフトの打ち合わせ場所としてリニューアル。1階を拡張して、向かいの公園の緑が見えるイートインスペースを設け、テラス席として開放できるようにしています。
ショーケースに並ぶ種類豊富な生菓子の中でも、一番人気は、店と同じ名の「ラメール」。卵白だけでつくる白いスポンジ生地と生クリーム、苺を使った、色彩の対比も鮮やかな看板商品です。

対談を終えて

大関シェフ
自分は2代目として店を継いだので、最近、実家が菓子店という2代目の若い方達が、悩んでいると相談に来てくれたりします。実は今日も午前中に、埼玉県からいらした2代目の方とお話していたんですよ。
うちの二番手を務める伊藤という者が「キリ®クリームチーズコンクール2017」に出場した際、焼菓子部門で最優秀賞を受賞させていただいたのですが、その時の作品「ゴマ味噌香る芳醇チーズ~山椒の辛味をピリッと利かせて~」も、現在、店で販売しています。やや好みが分かれる味ではありますが、なかなか好評なんですよ!そんな彼も、実は間もなく独立を予定しています。今あるお店を居抜きで、新しくやらせていただけることになったので、頑張ってほしいですね。

平岩
大関シェフのお話を伺っていると、とても前向きでいらして、若い方々が相談しにいらっしゃるというのもわかります。
私は、シェフとのご縁は、「キリ®クリームチーズコンクール」の2013年の第11回と2015年の第12回とで、審査員としてご一緒させていただいたことが始まりでした。大関シェフご自身も、2002年の第3回コンクールで最優秀賞を受賞されていますが、そんなシェフの背中を追いかけるように、スタッフの方もこのコンクールに出場されていることに、感銘を受けています。作品が商品化されるというのも、皆さんの励みになっていることでしょう。「ゴマ味噌香る芳醇チーズ」も「大地のスポンジ」も、もちろん私も買って帰ります!

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年4月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

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