菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、八王子市南大沢「パティスリー メゾンドゥース」の伊藤文明シェフにお話をお伺いしました。国内外のコンクールで活躍され、2013年に独立開業されてからも、世界大会「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」で準優勝という見事な結果を出されました。その挑戦に際して、お店の経営体制をどのように整えていらしたのか。今後のパティスリー業界を担う若手世代のお1人として目指すことなど、お伺いしました。
コンクールを経て地元の認知度がアップ
- 平岩
- こんにちは。このインタビューも多くのオーナーシェフの方々にお話を伺ってきましたが、伊藤シェフは1979年のお生まれなのですね?これまでの最年少が、1978年生まれの京都・福知山「洋菓子マウンテン」水野直己シェフでしたが、それを更新しての最若手ですね。伊藤シェフは、2019年の「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」に日本代表チームのお1人として出場され、準優勝を遂げられました。自店の経営をしながら、なお世界コンクールに挑む姿勢は、他のオーナーシェフの方々や業界関係者に感動を与え、「勇気づけられた」という声を耳にしています。その気構えや、具体的にどのように取り組まれたかなども、ぜひお伺いしたいと思います。
- 伊藤
- こんにちは。今は、自分より少し上や、同世代の方々がどんどん独立して、活躍されていますよね。今日は2階のスタッフの休憩スペースでお話させていただきますが、5-6年くらい経って設けることが出来ました。昼食は、各自から月5000円くらいもらって、まかないを妻に作ってもらい、食べています。食事をきちんと摂ることで、風邪を引いたりしなくなりましたね。



- 平岩
- それはいいですね。働くスタッフの方々の環境や健康管理は、とても大事です。皆さん、限られたスペースの中で、包材置き場とか休憩所とか、色々やり繰りしていらっしゃいますよね。
- 伊藤
- 10月から倉庫ももう1つ増やしました。橋本の方に冷凍庫屋さんがあって、-40℃で保管してもらえるんです。車で取りに行くのはちょっと大変ですが・・。
- 平岩
- ストックスペースがどんどん必要になっていくというのは、多くのお店にとって共通の悩みですね。「メゾンドゥース」さんと言えば、伊藤シェフがコンクールで優勝されたガレット・デ・ロワも大人気。クリスマスから年末年始に向けては、冷凍庫の必要性が非常に高まりますよね。
- 伊藤
- 2019年の年末から2020年にかけてのガレット・デ・ロワは、12/31だけでも80台くらい予約が入りました。実は、八王子市の「ふるさと納税」の返礼品にも採用されて、1月6日から2週間限定で受け付けたのですが、とても反響があり、100台くらいで受注をストップした状況でした。
- 平岩
- それは魅力的な返礼品ですね!着々と地域に根付いていらっしゃいますね。
- 伊藤
- 開業から7年経って、今でこそ理解を得られるようになりましたが、初めの1-2年は生きた心地がしなかったです。売価も安くつけすぎてしまったところがあって・・。それで、とにかく店を認知してもらおうと、コンクールを頑張ろうという思いになったんです。日本代表になって、市長を表敬訪問したりして新聞に取り上げられたことは影響が大きかったですね。
- 平岩
- ご出身地である愛媛県のお仕事にも関わられるようになって、中村県知事のところにも表敬訪問されていましたね。
最近では、TBSのテレビ番組『ジョブチューン』のコンビニスイーツの試食判定企画などにもご出演されていました。
- 伊藤
- あれは土曜の19時からというゴールデンタイムの放映で、反響が大きかったですね。近くにお住まいでも、うちの店をご存知ない方は多いですが、テレビをきっかけに知っていただき、来店いただくということが増えました。
新しい時代の働き方とは
- 平岩
- 2020年はコロナ禍の影響もあって、特に町のお菓子屋さんは近隣のお客様で賑わっているお店が多く、ますますお忙しくなっていらっしゃると思います。今、スタッフの方の週休は、どのくらいにしていらっしゃいますか?
- 伊藤
- 店を始めた頃は週1休みでしたが、今は、月8-9日はスタッフの休みを取れています。連休も含めて、月6日を店の休業日にしています。
- 平岩
- 週休2日制を実現できているのですね。ここ数年、経営者の皆様は、まずそこを目指していらっしゃると思いますが、既に実行していらっしゃるというのは、素晴らしいですね。今、スタッフの方はどのくらいの人数ですか?
- 伊藤
- 2018年の予選の後は、スタッフの退社が続き、「パティスリーイチリン」でも一緒に働いていて、フランスから戻ってきてくれた二番手の男性も独立準備のため退職しました。彼がいたおかげで、自分は世界大会に行けたんです。OBによる初めての独立予定なので、楽しみですね。いつか社員旅行でみんなで訪ねるのを楽しみにしています。三番手の経験者だった女性も結婚を機に退職しました。
今は、自分を入れて製造は8人。販売は、パートさんや学生アルバイトの方で8人。2021年には、3人を新卒で採用する予定です。6月に全員と面談して決めました。
- 平岩
- 個人店は、コロナ禍以降、これまでになくお忙しく、人手を求めていらっしゃるところが多いですね。
若いスタッフの方々に対して、感じられることはありますか?



- 伊藤
- 彼らは、ネットやSNSを使いこなす世代で、情報を沢山持っていますよね。ただ、遠回りしたくないのかな?と思う時があります。自分などは、「若いうちの苦労は買ってでもした方がいい」と思って育った世代ですが、彼らは、失敗するとしょんぼりしてしまう。真面目すぎて、自分1人でストレスを溜め込んでしまうことも多いですね。黙って抱え込まずに、周囲や、自分の店以外の友人達とも会話するといいと思います。
自分も、「クラブドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ」の会合などで、同世代と会える機会が多く、色々と話せるのがありがたいですよ。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2020年10月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。