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生産性を上げ、
新時代のブーランジェをリードする
vol.44 Boulangerie S.Igarashi(エス・イガラシ)五十嵐 聡太氏

東京・深川木場に2021年12月、「Boulangerie S.Igarashi(エス・イガラシ)」がオープンして3年半。緑豊かな木場公園近くに美味しいパン屋ができたと評判だ。行列店として話題を呼び、2024年には押上に2号店「es feuilletage(エスタージュ)」をオープン。オーナーシェフは、今、人気沸騰中の五十嵐聡太シェフだ。自慢のパンづくりはもとより、働き方改革など、新しいタイプのパン職人として注目を浴びている。

Boulangerie S.Igarashi(エス・イガラシ)

行列店「Boulangerie S.Igarashi(エス・イガラシ)」

自慢の40アイテムが揃う

東京の深川木場。地下鉄木場駅から徒歩7分ほどの住宅地にあるエス・イガラシは、行列ができるパン屋さんとして有名だ。開店10時前にはお目当てのパンを求め、ファンが並ぶ。店内にはこだわりのパン40種がズラリと並ぶ。自慢のクロワッサンはもとより、バゲットやカンパーニュ、キタノカオリ100%の「北の香り」などの食事パン類、サンドイッチ類、季節の焼き込み調理パン、あんバターサンドなど甘い系も充実。これらが次々と売れていく。

人気のあんバターサンド
スイーツ系も充実

「北の香り」464円は、北海道産のキタノカオリを100%使用した高加水のパンだ。もっちりとした食感で、口に含むとミルキーな甘さに驚く。そのままでも美味しいが、軽くトーストすると粉の香りと旨みが際立つ。砂糖選びも徹底してこだわり、「北の香り」には沖縄のさとうきびからつくられた含蜜糖を使っている。原材料を探求する情熱、こだわりは半端ない。

また「ピスタチオのエスカルゴ」561円は美しく、ザクザクの食感の生地と、巻き込んだピスタチオフィリングの上品な甘さ、刻んだピスタチオの味わいに虜になる。どれも五十嵐シェフの技術の高さがうかがい知れる。

北の香り
ピスタチオのエスカルゴ

パリッとしたクロワッサンを旗印に

メゾンカイザー出身の五十嵐シェフは、クロワッサンは得意中の得意だ。従ってクロワッサンを旗印にしている。誰もがこの外側がパリッとした「クロワッサン」388円に夢中になる。ショップカードやショッピングバッグ、スタッフのTシャツなどに、クロワッサンをデザインし印象づけている。

自慢のクロワッサン
パリッとした食感が人気
生地量は70g

生地量70gと大ぶりのクロワッサンは、国産小麦粉をブレンド、使用する発酵バターは、冬は重め、夏はあっさり味にと、季節によって使い分ける。パリッとした食感の秘密は、折り込んだ生地に、さらにもう1枚生地を重ねているからだ。面倒だが特長ある商品づくりには手間を惜しまない。更に表面には卵液ではなく、シロップを塗ることでパリッと感を出しているという。研究熱心だ。

季節感を大切に

左「春のいちご」右「春の訪れ

季節感を大切にしている五十嵐シェフ。「春のいちご」1/2カット669円の美しい赤色には驚く。苺果汁を入れた赤色の生地に苺とミルクチョコとレーズンがぎっしり。甘酸っぱさとチョコの甘さが絶妙だ。そして「春の訪れ」1/2カット604円。金柑香るもっちりした生地に、ピスタチオとカレンズ、蜜漬けの金柑がごろごろ入っている。断面が可愛らしく、見ているだけでワクワクする。まさに春を感じさせるアイテムだ。

「新玉ねぎ」はカンパーニュ生地にローストした新玉ねぎとデュカを練り込んでいるが、新玉ねぎの甘さとエスニックの香りが何とも言えず一度食べると後を引く。「グラタンドフィノワ」には新じゃがいもを使い、季節感を出している。これらは春限定ということだから、次の季節は何が出てくるか楽しみだ。これも五十嵐シェフのリピート客を増やす戦略といえる。

新玉ねぎ
グラタンドフィノワ
熟成ハムと発酵バター

サンドイッチも絶品だ。一番人気は、「熟成ハムと発酵バター」540円だ。「北の香り」に山口県の鹿野ファームの熟成ハムを使い、発酵バターを挟んでいる。この組み合わせに感動したファンが木場に通う。

2号店「es feuilletage(エスタージュ)」をオープン

1号店とは異なるコンセプトで、2024年7月には押上のスカイツリー近くに2号店「es feuilletageエスタージュ」をオープンした。こちらは得意の折込み生地を中心とした商品を揃えている。スカイツリーの真下ということもあり、観光客も多い。

エスタージュの前で
観光地を意識した商品を充実

ここでの人気は、進化系クロワッサン「パンスイス」だ。中でも赤色が鮮やかな「フランボワーズ」604円が人気だ。また真っ黒の色合いが印象的な「カカオ」583円も売れるという。外国人客も多い場所柄、和の素材を盛り込んだ「抹茶・あんこ・白玉」もある。
更にここには折込み生地を使った「エスカルゴ」を揃えている。ラインアップは「コーヒーのエスカルゴ」518円「ピスタチオ」561円などの4種だ。

奥がパンスイス3種、手前がエスカルゴ4種
フォカッチャ生地を使った、コーンマヨ、もちチーズ、ゴルゴンゾーラ・くるみ・はちみつ

その他フォカッチャ生地を使った惣菜パンなど40種類を揃え、観光客はもとより、地元の人々にも喜ばれている。若いお客様も多いエスタージュには、カラフルで見た目も可愛いパンを揃えている。入口脇にはベンチを置き、ドリンク類も提供、観光地対応にも余念がない。こちらは10時~17時までオープンしている。

メゾンカイザーでパンとの向き合い方を学ぶ

これまでの歩みについて語る五十嵐シェフ

五十嵐シェフがパン職人の道を目指したのは20歳の頃だ。「パンってこんなにも人を幸せな気持ちにするんだ」と、パンの魅力にはまり、パン職人になろうと決意したという。ドンクに入社、江東区東雲の工場でパンづくりの基礎を学ぶ。
その後メゾンカイザーに転職、パン職人としての技術向上に励んだ。渋谷店や日本橋コレド店で力をつけ、新しくオープンした大阪アベノハルカス店を任された。1日200万円を売り上げるトップ店に押し上げた功績は大きい。
経営の自由度が高く、効率化や無駄を省くことなど経営的なことも学んだ。メゾンカイザーではパンとの向き合い方、パンの愛し方を学んだ、と五十嵐シェフ。その時の経験が今の五十嵐シェフをつくったといえる。
その後、福岡で専門学校の講師として活躍、人に伝える能力の大切さを学んだという。そして独立、「まいにちパン」をオープンした。しかし「東京で店を出したい」との想いが強く、2年で終わりにし、東京進出を果たすこととなる。

3つのモットーを掲げ「エス・イガラシを」をオープン

都内10か所くらい物件を検討し、木場に決めた。そして2021年12月、晴れて東京にエス・イガラシをオープンした。
ここではパンづくりのモットーを3つ掲げている。①「素材へのこだわり」 ②「四季を感じるブーランジュリー」 ③「組み合わせを考える」の3つだ。
この3つをしっかりと実践。特に素材へのこだわりは半端ない。自分の納得する味を求め、バターや生クリームなども自ら確かめて厳選している。季節感については、お店に一歩入るとすぐに実感する。特に春はピンクや黄色など色鮮やかなアイテムが並び、訪れた人をワクワクさせる。

短時間で勝負

エス・イガラシは10時にオープン15時には閉店する。最初は驚かれたが今はお客様も慣れ、14時ぐらいにはほぼ無くなるという。メゾンカイザー時代から、無駄な作業は省き生産性を上げ、働き方改革を実施してきた。モットーでもある良い原材料選びには余念がないが、無駄な作業はしない。15時には閉店、残業もない。そのためか求人に困らないという。
五十嵐シェフ自身も17時には帰宅し、料理をしたり子供の世話をしたりと家庭的だ。日常生活を大切にしたいという考えを実践している。パン屋というと、朝早くから夜遅くまで、というイメージが強いが、生産性を上げ、それを払拭している。新しい発想のパン職人の登場にはベーカリー業界の未来を感じる。

生産性を上げる

バゲットはプースラント法(成形冷蔵発酵法) で焼いている。小麦粉の旨味が引き出され、しかも朝一番からすぐ焼けるので大変便利と五十嵐シェフ。北海道産の小麦100%使用、ルヴァンリキッドや生イーストを使い、塩はゲランドの塩を使用。風味豊かで外はサックリ、中はもっちりの食感に仕上げている。
料理好きで食材の買い出しも好きという五十嵐シェフ。季節の食材との出会いから新メニューの発想が生まれるという。
自分一人でやっていたら将来はないと五十嵐シェフ。「今は毎日のパンづくりの実作業からは、敢えて外れるようにしている」という。だからこそスタッフに任せ、育成に力を注ぐ。

プースラント法で焼いたバゲット
育成に力を入れる

トレンドをつくる

「商売にするためには、トレンドを無視してこの先はない」とズバリ。繁盛した店でも作り手が古い考えのままだったら、発展しないのではと語る。「自らの世界観を表現、トレンドを創り出していかないと今後は生き残れない」と、自らを鼓舞する。あの芸術的なパンスイスやクイニーアマンなどはさまざまな雑誌に登場している。
東京に出店するに当たり、全国のベーカリーや人気の店を1000店以上食べ歩いたという。好奇心旺盛で、美味しいと思った食材は一袋からでも取り寄せ、使ってみる。サンドイッチのハムは山口県の鹿野ファームからわざわざ取り寄せている。納得したものしか使わない主義だ。
展示会を見て回るのが好きという五十嵐シェフ。新しい技術や特長ある食材には興味津々だ。商品開発のアイデアの基本は、自分が食べたいものを優先しているという。「僕が料理担当」と五十嵐シェフ。家庭では毎日の夕食をつくるのが日課だ。こうした生活の基本がパンに繋がっている。
東京進出を果たして3年半。エス・イガラシもエスタージュも頻繁に雑誌やテレビに登場、人気沸騰中だ。そこにはトレンドを創り出す独創性とチャレンジ精神がある。
今年41歳という五十嵐シェフ。「もう1店舗ぐらいやりたい」と、そして今後は海外に住んでみたいし、百貨店にも出店してみたいと夢を語る。次はどの国でどんなパンを創り出すのか。考えただけでワクワクする。いずれにしても新時代のブーランジェとして、時代をリードしていくのであろう。

夢を語る五十嵐シェフ

五十嵐 聡太氏

宮城県生まれ。パン職人を目指し、ドンクに入社。東雲工場でパンの基礎を学ぶ。その後メゾンカイザーに転職、パン職人としての腕を磨く。大阪アベノハルカス店では全てを任され、売り上げトップの店に押し上げる。その後福岡で専門学校の講師を務め、福岡に「まいにちパン」をオープン。2021年 東京の深川木場に「エス・イガラシ」をオープン、行列店に。2024年押上に2号店「エスタージュ」をオープン。両方とも個性溢れるパンを売る店として、メディアに多く取り上げられる。生産性を上げるパンづくりなど、働き方改革を実践、新時代のブーランジェとして定評がある。

Boulangerie S.Igarashi(エス・イガラシ)

郵便番号
135-0042
住所
東京都江東区木場3丁目8−10
最寄駅
地下鉄東西線木場駅
アクセス
木場駅より徒歩7分
電話
03-6826-9955
営業時間
10:00~15:00
定休日
なし

es feuilletage(エスタージュ)

郵便番号
130-0002
住所
東京都墨田区業平1-21-5
最寄駅
都営地下鉄押上駅
アクセス
押上駅より徒歩3分
営業時間
10:00〜17:00
定休日
なし

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2025年05月)のものです

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2025年05月)のものです

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