
80-90年代に人気を博した背脂ラーメンが近年、再び注目を集めています。東京の「チャッチャ系」や新潟の「燕三条ラーメン」をはじめ、独自の背脂ラーメンを提供するお店も増えています。健康志向が食のトレンドである一方で、こってりしていて背徳的なイメージすらある背脂ラーメンがなぜ注目を集めるのか? 様々なスタイルの背脂ラーメンを提供する3店舗を取材し、各店のこだわりやメニュー開発の工夫を尋ねました。
浅草 熟成味噌らーめん のりあき・美々
国内外からの観光客で賑わう東京・浅草に店を構える「浅草 熟成味噌らーめん のりあき・美々」。背脂を使う新潟スタイルと、中華鍋でラードとスープ・具材を合わせて香りを立たせる札幌スタイル、この2つを掛け合わせた独自の背脂味噌ラーメンを提供して、幅広い年齢層から支持を集めています。
浅草 熟成味噌らーめん のりあき・美々
- 住所
- 東京都台東区駒形1-9-9川尻マンション105
- 電話
- 03-6231-7970
- 営業時間
- 11:30〜14:30/18:00〜23:00
- 定休日
- 不定休

新潟×札幌。“味噌激戦区”のエッセンスを合わせた独自の熟成味噌ラーメン


観光客で賑わう浅草寺から少し離れた閑静な住宅地に店を構える「浅草 熟成味噌らーめん のりあき・美々」。行列も珍しくないこの店では、味噌ラーメンと背脂を融合させた唯一無二の熟成味噌ラーメンを提供しています。
「実は味噌味を最初から構想していたわけではありません。浅草でいい物件を見つけたので市場調査をした結果、辺りには味噌ラーメン専門を謳うお店がなかった。また、土地柄で外国のお客様も多いことは予想できたので、日本的な調味料である味噌を使ったラーメンを提供することに決めました。そのなかで、背脂が乗った味噌ラーメンは東京でもまだ珍しかったので、背脂味噌ラーメンに辿り着きました」
お店立ち上げの経緯を語ってくれたのは店長の竹石則明さん。とくに、味噌ダレ開発には苦労したと言います。
「自分が目指す味を生み出せる味噌を求め、まずは味噌どころである新潟に足を運んで味噌蔵を回りました。自分の求める味に出会うまで日本各地を回る覚悟でしたが、新潟で幸運にも『これだ!』という蔵に出会うことができ、厳選した4種類の味噌を合わせた特製味噌が生まれました」
「のりあき・美々」の熟成味噌ラーメンは、「新潟濃厚味噌ラーメン」と「札幌味噌ラーメン」のハイブリッドです。背脂で濃厚さを生み出す新潟スタイルと、調理時にラードを使って中華鍋でスープや具材の香りを立たせる札幌スタイル。この両方を取り入れることで、香り高く優しい味わいのスープと背脂の濃厚さを同時に味わえる独自の味噌ラーメンを作り出しています。
背脂は煮込んだ後にフードプロセッサーで砕くことで、口当たりもなめらか。10種類以上の麺から厳選して選んだという特製の中太ちぢれ麺は、その濃厚味噌スープや背脂とも見事にマッチングします。


遊び心を大切に。お客様の冒険心でさらに楽しめるラーメン
「のりあき・美々」では通常の熟成味噌ラーメンに加えて辛味噌やつけ麺なども提供していますが、味は味噌一本。しかし、色々な楽しみ方ができるように工夫を凝らしています。
「当店では味変用のあん肝入り味噌と生玉子を無料で提供しています。味変味噌を入れるとスープがしょっぱくならずに、より味が濃厚でまろやかになります。生玉子はすき焼きのように麺をくぐらせる食べ方をおすすめしていて、お昼に時間のないサラリーマンが熱々の味噌ラーメンを短時間で食べるための工夫にもなっています」
さらに、ご飯を頼んで、味噌と卵をあわせてオリジナルのTKGにしてもよし。スープ割りを頼んでスープを最後まで味わい尽くすこともできます。
「スープ割りは新潟ではおなじみの楽しみ方。本来は濃いスープを薄めるためのものですが、当店はあっさりとした味噌ラーメンなので、甘味の強いしょうがを使ったスープで割ることで、最後に優しい余韻を味わってもらうために出しています」


お客様がカスタマイズできる余地をあえて残すことで、好きなように楽しんで欲しい、と竹石さんは言います。
「提供する一杯のラーメンの完成度にはもちろん自信を持っていますが、提供後は自由に食べて欲しい。お客様の冒険心のまま自由に食べていいですよ、ともっと発信していきたいですね。それができるように生玉子やスープ割りに加えて、味変アイテム(バジル・サルサ・シビレ ※各200円)なども用意していますから」
こうした工夫と姿勢が功を奏してか、背脂に味噌という一見こってりした組み合わせでも、女性や学生、年配の方など幅広い層の支持を集めています。
「店名は私の名前“のりあき”と『美味しく・美しく盛り付ける』という基本を忘れないようにと“美々”を組み合わせています。どんなお客様にも美味しく楽しんでいただけるように、細部にまでこだわったお店をこれからも目指したいです」


燕三条 豊潤亭
JR武蔵小金井からすぐ、小金井街道に店を構える「燕三条 豊潤亭」は、煮干しベースのスープに背脂がのった「背脂中華そば」が看板メニューです。新潟の燕三条ラーメンをしっかり受け継ぎながら、東京の人向けに一工夫を凝らした伝統の味は、男性だけでなく女性にも人気を博しています。
燕三条 豊潤亭
- 住所
- 東京都小金井市本町2-6-10シティライブ武蔵小金井107
- 電話
- 042-316-1040
- 営業時間
- 11:00〜23:00
- 定休日
- 水曜日+不定休

東京向けにカスタマイズした歴史ある燕三条の味


明治時代から洋食器の生産が盛んな新潟県燕市。この地で昔から人気のラーメンは、煮干しの出汁が効いた「燕三条背脂ラーメン」です。「燕三条 豊潤亭」は、東京でこの燕三条の味が楽しめる店として人気を博しています。
「職人が多い燕市では、昔からラーメンの出前需要が高かったそうです。その結果、元々は煮干しスープに細麺が主流だったラーメンが、伸びづらい太麺、そして冷めないようにたっぷりの背脂がのるように。当店でも、煮干しのスープと背脂にこだわっています」
取材を受けてくれたのは、オーナーで新潟出身の高崎誠さん。とくにこだわったのは「鮮度」の部分だと言います。
「繊細な味が好きな人が多い東京の方々にも燕三条ラーメンをおいしく食べていただけるように、脂や煮干しをなるべくフレッシュなものを使うことで、元来のクセの強さを少し抑えています。スープは背脂に合わせて調整していて、味を深めるために鯛干し・うるめ干し・硬口煮干し・鯵干し・ゲソの5種類の煮干しと、8種類の乾物を使用。背脂は甘さや味が抜けてしまったり、くどくなり過ぎないように、圧力鍋で仕込んだ鮮度の良い背脂を提供しています」
麺は本場の味を意識し、特注の太麺を使用。茹でる前に手揉みをすることでモチモチとした食感を生み出し、スープや背脂にもしっかりと絡みます。


選べる背脂量は6段階。こってりしすぎない工夫と地元愛
「豊潤亭」では背脂の量を6段階(無し・少なめ・標準・中油・大油・鬼油)から選ぶことができます。中でも一番人気は「中油」で、標準の1.5倍もの背脂がビッシリと丼の表面を覆います。
「背脂ラーメンを食べに来たからにはガッツリ食べたい、という方が多いのだと思います。中油の他に『大油』(標準の2倍)も人気ですね。意外と女性のお客様が多く、初めは『少なめ』で頼んで、後日、来店した際には『大油』を注文してくれた方もいらっしゃいました」


背脂のインパクトでこってり度は高く感じますが、柚子やトッピングの岩のり、そしてスープ自体があっさりしているなど、こってりしすぎない工夫を惜しみません。
「ずっと同じものを食べていると味が単調化してしまうので、一度スッキリして再度味を楽しめるように柚子を入れるようにしました。岩のりは燕三条ラーメンではもともと定番のトッピングで、背脂と絡んでも案外するっと食べられる。その上、海藻なので煮干し系のスープとは相性は抜群です」
新潟で生まれ育った高崎さんの“燕三条愛”はラーメンだけでなく、グラスや丼にも反映されています。「豊潤亭」では燕市産のステンレス製グラスを使うだけでなく、都内では珍しいステンレス製の丼を使用。地元愛溢れる高崎さんは、もっと燕三条ラーメンを多くの人に味わって欲しい、と今後の展望を語ります。
「新潟で生まれ育った時から身近にあったラーメンなので、僕の中でラーメンといえばこれ(燕三条ラーメン)。こってりしてそうで、案外そうでもないところが好きなんです。地元の味を東京で広めたいという気持ちが一番。今後はロードサイドの店など、団体客やファミリー層を狙ったお店も展開していきたいです」


背脂ラーメン チャッチャ亭
渋谷駅すぐ近くの「背脂ラーメン チャッチャ亭」では、醤油ベースの「背脂ラーメン」や「背脂混ぜそば」など、多彩な背脂メニューを提供しています。ジャンキーとあっさりが両立したラーメンは、渋谷の若者やサラリーマンを中心に人気を集めています。
背脂ラーメン チャッチャ亭
- 住所
- 東京都渋谷区道玄坂2-25-5 島田ビル 1F
- 電話
- 03-6277-5385
- 営業時間
- 11:00〜22:50
- 定休日
- 不定休

苦労の末たどり着いた“ジャンクさとあっさりの両立”


背脂を全面に押し出したメニューを提供する「背脂ラーメン チャッチャ亭」。開店から1年間の苦労をオーナーの小林学さんが振り返ります。
「最初の1年は“東京背脂らーめん 麺王”という店名でした。実は開店前から“チャッチャ亭”の店名は思い浮かんでいたのですが、背脂をあまり主張しない方が売れると思っていたんです。ただ、最初の1年はその店名でなかなか上手くいきませんでした」
軌道に乗るきっかけは意外なところにありました。
「業態も全部変えようかと思うくらいに迷うなか、最後にトライしたのがUber Eatsの出前でした。この出前が驚くほど売れました。その売り上げの伸びを見て、人間が脂質と糖を潜在的に欲していること、ジャンキーな背脂ラーメンの強みを再認識することができました。そこで背脂を全面に出そうと、店名を“チャッチャ亭”に変更しました」

背脂を全面に押し出しているからこそ、品質には強いこだわりを持っています。背脂は一般的にA・B・Cとランクが分かれ、「チャッチャ亭」で使うAランクの脂は値段が高い分、臭みもなく甘味が強い特徴があります。
背脂は小チャッチャ・並チャッチャ・大チャッチャの3つから選べ、一番人気は大チャッチャ。臭みが出たものは提供しないよう、鮮度には徹底的に注意を払っています。その上で、こってりしすぎない工夫がスープやトッピングのチャーシューにも隠されています。


こだわりの麺と「背脂」を軸にした豊富なメニュー展開
「チャッチャ亭」では麺にも力を入れています。試行錯誤を繰り返した辿り着いた中太のちぢれ麺は、食感やのどごし、背脂との絡み方も絶妙です。「麺は何度も変更していて、今の麺には1年前に辿り着きました。麺の味が強すぎず、背脂としっかり絡むちぢれ具合が欲しかった。そして何より、食べた時に美味しいと感じるもの。今の麺はそれらを完璧に満たしています。麺には卵白も入っていてのどごしもバッチリです」
「チャッチャ亭」では1番人気の背脂ラーメンに次いで、全粒粉配合の太麺を使った背脂まぜそばが人気です。他にも、つけ麺や背脂TKM(卵かけ麺)、二郎系のチャチャ郎なども大人気。そんな多彩なメニューのなかで、背脂にとっては組み合わせが難しそうな「冷やし背脂まぜ郎」という期間限定の冷やしメニューも提供しています。
「去年までは熱々の背脂を振りかけていましたが、今年から味付けした少し温かい背脂をかけています。普通の冷やし麺というより背脂も堪能できる冷たいまぜそばを目指しました」
このメニューは背脂量を選べませんが、たっぷりのもやしとキャベツに、味付き背脂がよく合います。全粒粉配合の太麺が背脂や醤油ダレとしっかり絡み、歯応えも抜群です。


「昔は背脂ラーメンが人気になるエリアは限定されていたと思いますが、今ではファンがつけば様々な場所で展開できると感じています。新宿西口や新橋などのオフィス街だけでなく、郊外で24時間営業の店舗を出しても勝負できる手応えがあるので挑戦していきたいです」


今回取材した3店舗では、バラエティ豊かなチャッチャ系ラーメン、背脂の量が選べる燕三条ラーメン、特製味噌と背脂の組み合わせを楽しむラーメンと、同じ背脂ラーメンでもそのスタイルは様々でした。一方で、共通して目指しているのは「背脂のクドさが出過ぎてしまわない」ことです。背脂の品質管理だけでなく、スープの調整やトッピング、サービスで提供するスープ割りなど、こってりした味でもあっさり食べられるような工夫を凝らしていました。若い男性やサラリーマンだけでなく、さまざまな層にも広まりつつある「背脂ラーメン」。今後もこってりとあっさりを両立したお店が更に増えていくかもしれません。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2025年05月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。