
見た目の鮮やかさ、ボリューム、手作りの具材……と、サンドイッチは様々な進化を遂げています。今回は、そんなサンドイッチの中でも、まるで一皿の料理のような「グルメサンドイッチ」を提供するお店を取材。食材の選び方や調理方法の工夫など、各店のこだわりのメニューについてお聞きしました。
San ju san(サンジュウサン)
旬の素材をふんだんに使用した彩り豊かなサンドイッチや惣菜パン、菓子パンなどが常時30種類ほど並ぶSan ju san。サンドイッチの具材やパンに包むフィリングは手づくりし、素材ごとに低温調理やグリルなど最適な方法で調理して提供しています。そんなグルメサンドイッチを求めて、遠方からやって来るお客さんも多いお店です。
San ju san(サンジュウサン)
- 住所
- 東京都世田谷区上北沢4-34-12
- 電話
- 非設置
- 営業時間
- 11:00~パンが売り切れ次第終了
- 定休日
- 月曜、火曜、水曜、不定休

「ワクワクする」サンドイッチを目指して


取材当日は、オーナーシェフの網代ミレイさんが腕によりをかけた創作サンドイッチが並ぶ「サンドイッチDAY」。網代さんをはじめ、4名のスタッフがお皿に料理を盛り付けるように丁寧にサンドイッチを組み立てる中、オープン前にもかかわらず、お店の外にはたくさんのお客さんが列をなしていました。
驚くのは、見た目の華やかさと、まるでフレンチのように丁寧に調理された具材です。たとえば、牛肉と新玉ねぎのムースを合わせた「酒牛と新玉の彩響」は、低温調理した黒毛和牛に黒舞茸と赤ワインとエシャロットのソースをまとわせています。世界最高級の味と風味を持つ胡椒と言われるカンポットペッパーをほんのりときかせ、牛肉が見えないくらいに新玉ねぎのムースで覆ったら、最後はオニオンリングで飾り付けをします。
「サンドイッチをつくる際、パッと見た瞬間にワクワクするものになっているかどうかを大切にしています。中にサンドする具材は、まずはお肉や魚などのメイン食材を決め、それから合わせるソース、野菜の順で決めることが多いです。特に野菜は、その季節においしい食材を選ぶことを心がけています」


具材の調理にとことん時間をかける
通常、サンドイッチは常時5~6種類ほど用意しています。この日の「サンドイッチDAY」には、旬の食材を使ったボリューム満点のサンドイッチが10種類並びました。「今日は、深夜の1時から準備を始めました」と明るく話す網代さんに、この日並んだそのほかのサンドイッチについても伺いました。
「肉の鼓動、エビの踊り」は、山形県産の肩ロースがメイン食材です。塩をまぶした豚肉を窯に入れ、焼いては取り出すという工程を繰り返します。
「一度に焼き上げることもできるのですが、どうしても肉汁が減ってしまう気がして。焼く、休ませるを2~3回繰り返し、最後は余熱で火を通します」
ソースは炒めた干しエビに白ワインで香りづけをし、鶏の出汁、行者ニンニク、たっぷりのキノコを加えて煮詰めます。最後は豆乳クリームでとろみをつけ、豚肉とともにあふれんばかりにサンドイッチに盛り付けます。
魚介類を使用したサンドイッチも見逃せません。たとえば、皮ごと食べられる大きなエビを3尾サンドした「XO醬が織る海と森」。エビはガーリックオイルでさっと炒めてから、白ワインで蒸し焼きにします。真っ黒なソースは、水で戻した干し牡蠣、干しエビ、煮干し、生ハムをフードプロセッサーにかけて炒め、豆板醤、紹興酒、醤油で味付けをしています。
「エビをメインにしようと思ったときと、最初にガーリックシュリンプを思いつきました。でも、もう少しひねりがほしいなと思っていたところ、たまたまシンガポールで干し牡蠣を目にして。もしかしたら、エビと合うんじゃないかと思って、今回組み合わせてみたんです」


まるで一品の料理

「一品の料理」とも言える網代さんのサンドイッチ。さまざまな食材の組み合わせはどのようにして思いつくのでしょうか。
「たとえば『生姜焼きをフレンチ仕立てにしよう』と思ったとき、豚肉、醤油、砂糖、酒、生姜など、生姜焼きの構成要素をまず考えます。そのうえで、『フレンチの食材や調味料に置き換えられるものはないか』『酸味を足してみてはどうか』などと発展させていくイメージです」
具材をはさむパンは、ソースや野菜の水分が染み込みにくいよう、全粒粉入りの湯種バゲットにしています。
「全粒粉を混ぜたほうが白い粉だけでバゲットを焼いたときよりも、具材の水分が移りにくく、ベタつかない気がしていて。お客様の中には長時間持ち歩く方もいらっしゃるので、いかにおいしく食べていただけるかを常に考えています。また、当店はパンをフィルムなどで包まず、そのままの状態で陳列しているので、湯種を配合することでパン自体の乾燥も防いでいます」
およそ100個のサンドイッチを用意したという「サンドイッチDAY」。昼過ぎには、そのすべてが完売しました。


「私はサンドイッチを食べるのも、つくるのも大好きです。手頃な金額で一品の料理を食べたような気分になれるし、パンをお皿にした料理として、サンドイッチでしかできない食べ方もあると思っているからです。今後も、たくさんのお客様にワクワクしてもらいたいですね。最近は、海外の研修に講師として招かれることも多く、定休日以外にお休みをいただくことがあります。念のため、Instagramの情報をチェックしてからお越しいただければ幸いです」


3deux1(トロワドゥアン)
3deux1は20種類の具材の中から好きな組み合わせを選べる「カスタムサンドイッチ」のお店です。数々のホテルやレストランで研鑽を積んだシェフがつくるできたてサンドイッチを味わうことができます。
3deux1(トロワドゥアン)
- 住所
- 東京都目黒区鷹番3-8-10第1寿美吉ビル103
- 電話
- 03-6712-2262
- 営業時間
- 8:00~18:00(パンが売り切れ次第終了)
- 定休日
- 水曜、第2火曜

目の前でつくるライブ感を大切に


「お客様ご自身で選んだ具材の組み合わせで、レストラン出身のシェフが目の前でサンドイッチをつくってくれるお店があったら、おもしろいかなって思ったんです」
そう話すのは、3deux1のシェフ植田篤さん。愛知県出身の植田さんは、地元愛知のホテルやレストランで修行を積んだ後、フレンチをベースに、イタリア料理、メキシコ料理など数々のレストランでメニュー開発や統括料理長として活躍。2022年に3deux1を立ち上げました。
3deux1では常時20種類の具材の中から、お客様が好きな食材を二つチョイスし、最大190通りのサンドイッチを楽しむことができます。20種類の具材はすべて植田さんが仕込みを行っています。
「時々、『その組み合わせは……』と思うような具材を選ばれるお客様もいらっしゃいます。その際、一応お伝えはさせていただきますが、お客様が『これでいい』と言うならそれ以上は止めません。だって、自分が食べたいと思うものを食べるのが、いちばんおいしいですから」
自由に選べるのが魅力の3deux1のサンドイッチですが、せっかくなのでこの日は植田さんおすすめの組み合わせをお聞きしました。



まずは、オープン当初からの人気メニューという「スペイン赤豚のブレゼトマトフォンデュ」×「レッドチェダーチーズオムレツ」。スペイン赤豚のバラ肉をトマトや香味野菜と一緒に白ワインで3時間ほどとろとろになるまで蒸し焼きにし、仕上げに鉄板で表面を焼き上げます。蒸し焼きをした際に出た煮汁は、煮詰めることでトマトフォンデュのようなソースに。レタス、トマト、ふわとろオムレツ、ソース、バラ肉の順で重ね、最後にパルミジャーノ・レッジャーノをたっぷりかけたら、マスタードバターを塗ったふんわりやわらかな食パンで優しくサンドします。
「食パンはJR高田馬場駅付近の『馬場FLAT』さんから仕入れています。国産小麦100%、北海道産ミルク、発酵バターでつくられた同店の食パンは、当店のサンドイッチをつくるうえで、欠かせない存在です」
サンドイッチならではの工夫
そのほかにも、レストランを経験したシェフの技が光るサンドイッチは、まだまだたくさんあります。
野菜をたっぷり摂れる「ひよこ豆フムスと赤玉ねぎのアチャール」×「キャロットラペ オレンジとアーモンド」といったヘルシーメニューもおすすめです。赤玉ねぎのアチャールは、スライスしたオニオンをシナモン、フェンネルシード、クミンを入れたオイルに絡めて香りを移したら、玉ねぎのシャキシャキ感を失わないよう、短時間でさっと炒めます。最後に、白ワインビネガーとハチミツ、塩で味を整えます。
「サンドイッチとして食べたときに、一つひとつの素材の香り、食感、味をしっかり感じてもらえるように意識して具材を調理しています。『玉ねぎのシャキシャキとした食感がした』『次はクミンの風味を感じた』『最後はキャロットラペのオレンジがふわりと香った』……というように、それぞれに具材が口の中で一緒になったとき、相乗効果が出るように工夫しています」


どんな具材とも合う「黒トリュフとレンズ豆のポテトサラダ」にも、サンドイッチならではの工夫が施されています。
「ポテトサラダは、時間が経つとどうしても味がぼけてしまう気がしていて。そのため、茹でたジャガイモをマヨネーズであえる前にトリュフオイル、塩、コショウ、赤ワインに漬け込んで、それらをしっかり吸わせてから、最後にマヨネーズでコーティングするようにしています」


時にはお客様の希望を反映することも
常時20種類ある具材は、毎月2~3種が入れ替わるそう。メニューには、「大粒なめこのフリット ケイジャンスパイス」「海老カツレツ ビスクソース」「マッシュルームクリーム」など、世界各国の食材やスパイスに精通した植田さんならではの具材が並びます。
「新しいメニューを考えるより、何をなくすかを決めるほうがつらいです。つくってみたいものや使ってみたい食材のアイデアは泉のように湧いてくるのですけど、『20種類まで』と決めているので、新作登場のたびに消えていく具材もあります」
撤退させる具材を決めるたびに「あのお客様、これが好きなんだよな……」と、お客様の顔が浮かぶと言います。
「でも、その分いろんなものをお試しいただければうれしいです。お客様からのリクエストをメニュー化することもあるんですよ」
以前、お客様からご要望のあった「坦々肉味噌」を具材に採用したこともあるのだとか。今後も、新しいサンドイッチが続々と登場予定です。


チャームサイドサンドイッチ 原宿竹下通り店
原宿・竹下通りに店を構えるチャームサイドサンドイッチ。2025年1月にオープンしたばかりであるのにもかかわらず、店内はトレンドに敏感な若者や、海外からの観光客でいっぱいです。その理由は、海外の人も思わず「クレイジー!」と叫んでしまう、具材たっぷりのサンドイッチです。
チャームサイドサンドイッチ 原宿竹下通り店
- 住所
- 東京都渋谷区神宮前1-6-8井口ビル2F
- 電話
- 070-8577-5704
- 営業時間
- 11:00~19:30
- 定休日
- なし

おいしさを共有できるボリュームサンドイッチ


チャームサイドサンドイッチの本店は、2021年5月に広島県広島市の閑静な住宅街でオープンしました。注文を受けてから一つずつ丁寧につくる提供スタイルが評判を呼び、広島県内のタウン情報誌で「サンドイッチ部門1位」に選ばれたことも。オープンからしばらく経った現在でも、3時間待ちの行列ができることもあるのだそう。オーナーの松本拓也さんにお話を伺いました。
「本店では、ローストした鴨肉とカシスソースを合わせたバゲット、林檎と蜂蜜、フランス産ブリーチーズのバゲットなど、私か海外で見てきた少しめずらしいサンドイッチを提供しています。ありがたいことに、予約だけで完売してしまう日もあります」
そうした中、人気の高まりを受けて2025年1月に東京・原宿に2店舗目となる原宿竹下通り店をオープンしました。原宿竹下通り店は海外のお客様も多いため、見た目にもインパクトのあるサンドイッチを提供しています。
たとえば、人気ナンバーワンの「ミートボックス」には、ジューシーな肉質が特徴のサガリのステーキが300グラムサンドされています。女性に人気の「オムボックス」は、卵が6個分使用されているのだとか。松本さんは「“身の丈”に合ったサンドイッチをつくっただけですよ」と、自身のお腹をさすりながら笑います。
一方で、日本人のお客様は、2人で1つのサンドイッチを頼み、シェアする人が多いのだそう。ここには、松本さんのある考えがありました。
「広島のお客様を見ていると、友達同士やカップル、ご夫婦など2人組で来られる方が多かったんです。そのため『別々のサンドイッチをシェアしてもいいけど、同じものを食べて、そのおいしさを共有してもらうのも楽しいのでは?』と考え、2人で1つずつ食べてもらいたいという思いも込めてこのボリューム感にしています」


600店舗・1000種類以上のサンドイッチを食べ歩いた
松本さんがサンドイッチ店を始めたのは、語学留学で滞在していたオーストラリアでの経験がきっかけでした。「以前、ゴールドコーストとブリスベンという都市にトータルで5年ほど住んでいたんです。そこで驚いたのが、サンドイッチのおいしさです」
当時、日本ではサンドイッチは作り置きしておく店が多かったなか、オーストラリアでは注文が入ってからつくって提供する「レストラン型」が主流でした。みずみずしい野菜や焼き立ての肉といった具材がたっぷりのサンドイッチは、格別だったと言います。
「それからは、サンドイッチに夢中になりました。オーストラリアにいる間はずっと食べ歩きをしていましたね」
帰国後もサンドイッチへの思いは冷めることなく、アメリカ、イギリス、フランス、ドバイとさまざまな国へ訪れ、サンドイッチを探しました。およそ10年かけて600店舗・1000種類以上のサンドイッチを食べ比べたと言います。
そうしたなか、「日本に、レストラン型のサンドイッチを広めたい」という思いが強くなり、2021年に広島にお店をオープンするに至りました。


今後もたくさんの「アメージング」を届けたい

世界各国のサンドイッチを食べ歩いた結果、松本さんはある結論に辿り着いたといいます。
「サンドイッチの具材は大切です。でも、味覚的にインパクトを与えるためには、それをどういう順番で組み立てていくのかということや、味の要になるソースをしっかりつくることが重要だと僕は考えています」
人気ナンバーワンの「ミートボックス」には注文のたびに焼き上げたステーキ肉に、同店がサンドイッチ用に開発したシャリアピンソースを絡めています。
「シャリアピンソースは、すりおろした玉ねぎを飴色になるまでじっくり炒め、甘みを最大限に引き出しています。そこに醤油やニンニク、少しだけハチミツを足すことで、コクが出るようにしています」
醤油は、山口県産の醤油をはじめ、3種類ほどをブレンドしているのだそう。国産豚の背ロースを厚さ5cmにカットして揚げたカツサンド「KATSU ~勝つ~ BOX」は、赤ワインを加えた自家製のトンカツソースをかけ、深みのある味わいになっています。


「オムボックス」は組み立て方に工夫を施しました。バターと特製マスタードマヨソースを塗ったパンにハムを重ね、その上にチェダーチーズを散りばめて焦げ目をつけます。マーブルチーズを中に閉じこめた卵6個分のオムレツをパンにのせ、カットしたら表面に胡椒とパセリをふりかけます。卵だけだと単調になりがちなところを、風味の異なる2種のチーズを使用することで、アクセントを加えました。具材を立たせるため、パンはあっさりとした味わいのものを選び、サンドイッチに仕上げる直前に表面をあぶって香ばしさをプラスしているそう。
「本店で提供しているローストした鴨肉とカシスソースを合わせたバゲットなどのように、海外には本当にいろんなサンドイッチがありました。今後、メニューはどんどん増やしていく予定です。これからも、お客様に『アメージング!』と思ってもらえるようなサンドイッチを考えていきたいですね」


お客様に喜んでいただけるグルメサンドイッチをつくるためには、「見た目を華やかにすること」「具材をすべて手作りすること」が大切と言えそうです。同時に、今回取材した3店舗では、厳選した食材を使用したり、旬の野菜を取り入れるなど、素材そのものにも工夫が見られました。ぜひ、皆様のお店でも参考にされてみてはいかがでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2025年03月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。