2006年、全国でも珍しいカレーラーメン専門店としてオープンした[ミスター.Puppy]。大阪市の西天満エリアにあり、地下鉄堺筋線・谷町線の南森町駅から徒歩3分、JR大阪天満宮駅から徒歩5分という立地です。大阪では「カレーラーメンといえば、ミスターパピー」と知られており、昼は行列ができるほどの人気店です。
42歳で脱サラし、鉄板焼店を経営していた店主の岡本正義さん。「もともと、人と同じことをするのが大嫌いな性格。鉄板焼店は会員制、値段を表示しないというスタンスで約12年続けました。もっと面白いことをしたい、と考えたのがカレーラーメン専門店でした。今は数店舗ありますが、当時は日本のどこにもなかったと思います」(岡本さん)。
周囲に反対されながらの開店でしたが、珍しさからテレビや新聞などにひんぱんに取り上げられ、10年たった現在はお客さまの7~8割が常連さんです。
オリジナルで開発したカレーラーメンは、開店以来、材料やスパイスの配合を変えながら改良を重ね、約3年前に理想の味が完成しました。カレースープは、ほんのりと辛いのに、ベースに品の良い甘さを感じます。これは、白菜、玉ネギ、ニンジン、リンゴ、バナナ、生姜、ニンニクをミキサーでジュース状にし、スパイスと合わせて3時間炊き込んでいるから。野菜も果物も生のものを使っているため、季節によって甘さや風味が少々異なるそう。
カレーラーメンは全部で5種。豚バラ入りの『ポーク』が一番人気で、お客さまの約5割が注文するそうです。牛バラ肉を使った『ビーフ』『シーフード』のほか、『梅干し入り』『豚キムチ』といった変わり種も揃えています。
合わせているのは、複雑な風味のスープによくからむ、中太ちぢれ玉子麺です。真空ミキサーで練られた真空麺で、ねっちりとした食感が特徴です。
お客さまの約9割が楽しんでいるというのが、麺を食べ終わったら、残ったスープにライス&温泉卵(+200円)を入れる“カレークッパ”という食べ方です。ほかに、ライス&海苔、あられ(+250円)の“カレー茶漬け”もおすすめです。
ちょっとした手みやげとして大人気なのが、九州の製造会社でつくってもらっているインスタントの袋麺です。2014年に開発され、店舗のほかに生協でも販売されています。また、1年前にはオリジナルのカレーパウダーも開発しました。スープや焼き飯、雑炊、ポテトサラダなどさまざまな料理に使えるとあり、自宅用として好評だそうです。
現在65歳の岡本さんの悩みは、体力をいかに維持させていくかということです。「毎朝7時からスープを炊き、夜に片付けが終わるのが深夜0時。忙しい昼の時間帯は3~4名のパートさんとともに働いていますが、夜は私一人です。それでも、真面目に商売をしていたら、信頼できる人たちが集まってきて、どこかで助けてくれる。好きなことを思い切りできて幸せです」と、岡本さんは語ってくださいました。
大阪市のビジネス街・本町エリアの西端にある[イレブンスパイス まろ亭]。2010年にカレー専門店として開店し、2015年11月にカレーラーメン専門店としてリニューアルオープンしました。お客さまの多くは近隣の中小企業で働くサラリーマンやOLさん。昼はカレーラーメン、夜は一品とカレーラーメン、カレーもつ鍋を揃え、居酒屋スタイルで営業しています。
前身はカレー専門店で、昼はオーソドックスな欧風カレー、夜はカレーもつ鍋を中心とした居酒屋メニューを提供していました。「カレーもつ鍋の〆としてうどんを出していたところ、お客さまからの“ラーメンを入れたい”というリクエストに応えたのがカレーラーメンの始まりです。ほかのお客さまからも好評だったので、最初はランチの金曜日限定メニューとして提供していました。すると金曜日だけ行列ができたため、毎日のランチで出すように。ランチのお客さまの8割が注文するようになってきたため、2015年11月にカレーラーメン専門店として業態を変えることにしました」と、オーナーの吉田卓司さん。
夜のカレーもつ鍋コースは飲み放題2時間付きで3,500円と格安のため、近隣の中小企業で働く人たちから、飲み会でも重宝されているそうです。
吉田さんが重視したのは、食べやすさとまとまりの良さ。スープづくりは、鶏ガラと玉ネギ、トマト、バナナ、リンゴなどの野菜を約8時間煮込むことから始まります。スパイス11種とハーブを合わせてさらに4時間煮込み、2日ほど寝かせてベースをつくります。こちらのスープに昆布や宗田節、白ネギといった和ダシを合わせてようやく完成します。
料理の写真を撮る人が多いため、インパクトの強さも狙いのうち。豚バラ肉100gを箸で切れるほど柔らかく煮た“一文字チャーシュー”を中心に、太いメンマ、水菜、ナルトを配置しています。
カレーラーメンはオーソドックスな『カリー麺』のほか、アレンジメニューとしてトマトソースとチーズを合わせた『パルメザンカリー麺』、もやしをたっぷり入れた『ジャンクカリー麺』などがあります。
大阪市ではレベルが高いカレー専門店の数が多く、スパイスカレーのブームが続いています。
「僕は兵庫県出身ですが、大阪の人はとにかくカレーライスが大好きですね。しかし、カレーなどの庶民食が愛される一方で、新しいものはなかなか受け入れない土地でもあります。夏の夜限定で出している、まぜそばタイプの『冷やしカリー麺』を浸透させるのには2年かかりましたね。女性がオーダーしたものを年配の方が一口食べて気に入ってくださって、また他の方が食べてみて……という、口コミのような形で浸透していきました」(吉田さん)。
現在は、昼夜ともに安定した売り上げがありますが、仕込みの関係で1日100食の提供が限界だそうです。「大幅なチェーン展開は考えていませんが、ゆくゆくは支店を2、3店舗つくりたいですね」と、吉田さんは店舗展開の夢を話してくださいました。
クラブやラウンジ、割烹など高級店が密集する繁華街、北新地。近年はカジュアルな店が増えつつあるため、若い層からも注目されているエリアです。[旬彩堂]があるのは、飲食店が入ったビルの1階奥。表通りからは目立たない場所にありますが、口コミでじわじわとお客さんが増えています。
雑居ビルのかなり奥にあり、カウンター5席、テーブル4人席×2卓という小さなお店です。メニューのメインはカレーラーメンですが、お酒だけ、つまみだけというバーづかいもできます。繁華街・北新地という場所柄、『飲んだ後のシメ』または『お酒を飲みながら』というお客さまがほとんどで、ピークタイムは23時以降。お客さまの約9割が常連さんで、そのうち3割は関東から出張で来るサラリーマンというのが意外です。関東にはカレーラーメンを食べられる店が少なく、「東京にも出店してほしい」という声も多いそうです。
開店後の早い時間は『飲む前の腹ごしらえ』を目的としたお客さま、深夜は近隣で働く従業員が仕事終わりに訪れています。
「お客さまの多くは私たちスタッフと話すことを目的としているようで、3~4時間滞在する方も多いですね」(オーナー・谷本昌哉さん)。
谷本さんは[旬彩堂]2店舗のほか、大阪市内で飲食店2店舗を経営しています。カレーラーメンの基礎は、前出の[ミスター.Puppy]のアルバイト時代に学びました。
谷本さんが目指したカレーラーメンは、日清食品の『カップヌードル カレー』です。「マイルドなスープにつるりとした麺が好相性の国民食。何度食べても飽きない、誰もが大好きな味を手づくりでできないかと、試行錯誤して完成させました」。
スープのベースは、四季折々の野菜です。春は新玉ネギ、夏はカボチャ、秋はサツマイモ、冬は白菜を主軸に、隠し味としてラードや味噌を加えています。「季節によって野菜の種類や配合が変わるので、スープの味も変わります」と、谷本さん。
フレンチの技法を用いてペースト状にしたスープを濾し、スパイス18種類を合わせてさらに炊き込み、丸一日寝かせてカレースープができ上がります。
カップヌードルのような『ジャンクで親しみやすい麺』を探しましたが、なかなか見つからなかったため、製麺所でオリジナルで開発してもらった細ちぢれ麺を使っています。
カレーラーメンは『ポーク』『ビーフ』『シーフード』など5種類。お客さまの7割がポークを注文しますが、隠れたヒット作は『梅』。南高梅の爽やかな酸味がカレーと合うと評判です。梅の産地・和歌山県出身の谷本さんの実家周辺では、カレーに梅干しを入れて食べる人が多いというのがアイデアの元です。
二日酔いや胃もたれの心配を減らしたい方向けに、麺ナシのカレースープもメニューに揃えています。「さらりといただけるスープは飲んで食べた後のシメにぴったりです。スパイスにはアルコールの中和や肝臓の保護といった効果が期待できるんですよ」(谷本さん)。
支店である肥後橋店はビジネス街の中心にあります。カレーラーメンの種類はほぼ同じで、ランチタイムも夜もメインのお客さまは近隣の会社員。肥後橋店限定の具だくさんカレー鍋はなんと300円で大ヒット中だそうです。
タイのカレーに麺を入れた、全国でも珍しいタイカレーラーメン専門店[カレーラーメン シャム]。京都市・円町で約10年続く、タイ政府公認、タイカレー専門店[シャム]の姉妹店として2013年にオープンしました。場所は阪急京都線・四条大宮駅から徒歩約8分、住宅街や専門学校がある比較的落ち着いたエリアです。30代男女のお客さまがメインですが、近隣の専門学校生や年配客にもファンが多いそうです。
タイカレー専門店[シャム]で、まかないとしてうどん麺を入れてスタッフが食べていたカレーうどんが、タイカレーラーメン開発のきっかけ。[シャム]のオーナーが、「カレーラーメンの専門店を、姉妹店として経営してはどうだろう」とこちらのお店のオーナー・今村洋介さんに持ちかけ、開店する運びとなりました。
タイカレーラーメン『カオソーイ』は、チキン/ポーク/ダブル/肉なしが選べます。また、辛いものが好きな方にはグリーンカレーのラーメンもあります。また、GW明け~10月末までの季節メニューとして米麺で提供するトムヤムクン冷麺があります。
タイ北部のチェンマイ地方にはそもそも『カオソーイ』という名前のカレーラーメンがあります。ココナッツミルク入りのカレースープに中華麺を入れたもので、郷土料理として一般的に食べられています。
こちらのタイカレーラーメンは、円町[シャム]の自家製カレーペーストとほぼ同じレシピでつくられています。数種類のスパイスや唐辛子、玉ネギをすりつぶし、カピというエビのペーストなどを合わせたレッドカレーペーストは、辛さや爽やかさ、複雑な香りが一体となっています。
このペーストに、レモングラスやバイマックル(こぶみかんの葉)やナンプラーとともに炊いた鶏ガラスープ、ココナッツミルクを合わせてカレースープが完成します。
3年前の開発当初に比べ、現在は辛さを強くしているそうです。エスニック料理好き、カレー好きの方は辛さを求める傾向が強いためです。
カレーラーメンのトッピングは、茹でた鶏モモ、豚ひき肉とホーリーバジルのガパオ、レッドオニオンのスライス、刻み白ネギ、刻み青ネギ、高菜漬です。カレーと高菜漬の組み合わせは意外な印象がありますが、現地のカレーラーメン『カオソーイ』にもパッカドーンという高菜漬が入っているそう。
麺は中太ストレート。トッピングとしてサクサクの素揚げ麺をのせているのも、現地と同じスタイルです。
卓上にはレモン汁、ナンプラー、ニンニク唐辛子があり、好みに合わせて味を変えながら食べ進めることができます。お客さまの約7割は、残ったスープにタイ米のご飯を入れて楽しんでいます。
「開業から3年経ち、ようやく認知度が上がってきたという実感があります。もっとたくさんの方に召し上がっていただけるよう、工夫していきたいですね」と、今村さん。さまざまな味わいを組み合わせたタイカレーラーメンは、まさに日本人好み。これからの展開に期待が持てます。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年8月)のものです