
「ピザ」と言えばイタリアやアメリカをイメージしがちですが、近年では東アジア~東南アジア圏で誕生したニューウェーブのピザ専門店の日本上陸が増加中!今回はフィリピン・韓国・ベトナムといったアジア発のピザ店を取材しました。その魅力や工夫・こだわりを紹介します。
ALLDAY PIZZA SERVICE(オールデイピザサービス)目黒不動前店
韓国で2019年にオープンした大人気ピザブランドの日本第一号店として品川区・不動前に開店。さまざまなオリジナルソースに浸けて食べる「ディップ式」ピザを販売しているほか、多くのブランドとコラボしたグッズの販売なども行っています。
ALLDAY PIZZA SERVICE(オールデイピザサービス)目黒不動前店
- 住所
- 東京都品川区西五反田3-12-15 村上ビル1F
- 電話
- 03-6417-3508
- 営業時間
- 11:00~23:00
- 定休日
- 年中無休

韓流ピザはディップとチーズに注目!


「ALLDAY PIZZA SERVICE」があるのは、東急目黒線・不動前駅から徒歩4分ほどの場所。ストリートアート的なネオンサインやダイナー風のインテリアなど、お店全体は定番のピザ屋スタイルながら、物販棚に並ぶ韓国製の食品やアルコール類が個性を放っています。
「ここ(不動前)の近辺は各国大使館が多い地域で、国際色が豊かなんです。ビールやピザが置いてある、アメリカンダイナーのようなお店の雰囲気は人気なんですよ」
取材にご対応いただいたのは、この店舗を運営する株式会社E-MATEの市川さん。韓国の本店は2019年にオープンし、現在は飲食業にとどまらずアパレル・アクセサリーブランドとのコラボや、 韓国の有名人とのイベントなども実施。日本でも東京と神奈川に3店舗を展開し、焼き上げたピザをソースにからめて食べる「ディップ式」が人気を集めています。
「ALLDAY PIZZA SERVICE」で最も注目すべき食材はチーズ。本店のある韓国から仕入れたものを100%使用。そのほかの食材も原則的に韓国から仕入れており、本店の味と食材を日本でも再現しています。
「このチーズに混ぜものをすれば簡単にコストを安くできますけど、そうはしません。当店では、本店と繋がりの深い韓国のチーズ製造会社から直接仕入れることで、品質を保ちながらコストを下げています。もちろんチーズの原料となる牛乳も、生産する乳牛の段階からチェックして力を入れています」
市川さんいわく、本場・韓国の外食系でチーズの扱いを中途半端にしてしまうと、お客様からすぐさま批判が飛んでくるのだとか。チーズタッカルビなどが人気料理として定着している、韓国らしいエピソードです。


素材と韓流食文化へのこだわり
また、ピザ生地に使用する小麦粉についても、「ALLDAY PIZZA SERVICE」では3~4種類の小麦粉を使用し、トライアンドエラーを3年ほど続けて仕上げた配合を用いています。
韓国と同じクオリティ&同じ味わいでピザを提供することを意識しつつ、日本と韓国で明確に違うのは「辛さ」。日本人は韓国人に比べて辛味や刺激物への耐性が低いため、日本人の舌に合わせて辛味を抑えたローカライズをしているそうです。
「韓国の店舗で出しているサイドメニューで、子供向けの甘めな『マイルドヤンニョムチキン』というのがあるんですが、これが日本の店舗における通常の『ヤンニョムチキン』と同じ辛さです。韓国だと生の青唐辛子をバリバリかじりつつ茶漬けを食べるというのが夏の風習なのですが、日本人がそれをやるとお腹を壊してしまいますね」
ピザのメニューは定番と韓国風が半々。「ペパロニ」は熱々チーズの上にサラミが敷き詰められた王道スタイルで、クセがなく食べやすいぶん、ディップソースによって大きく雰囲気や味付けが変わるメニューです。



一方、甘辛い焼肉をふんだんにトッピングした「プルコギ」はまさに韓国ならではのピザといった個性派。焼肉部分は歯ざわりも味わいも十分で、かなりの食べごたえです。同じく「青唐ミート」も、キムチや焼肉などで頻繁に青唐辛子(プルコッチ)を使う韓国食文化を感じさせるメニュー。
このほかにも「マルゲリータ」など複数種類のピザを用意。なかにはピザひと切れに大ぶりなソーセージ一本が丸ごと乗った豪快なメニューもあります。また、サイズは20cm・30cm・40cmのほか、1カット専用の紙パッケージも用意されており、購入が可能です。食べる人数や食事量に応じてサイズをチョイスできるのも嬉しいポイントです。
名物「ディップソース」の裏に苦労と努力が
韓国テイストなピザに並んで「ALLDAY PIZZA SERVICE」の特色と呼べるものが、ピザを浸けて食べるディップソース(税込100円で別途購入)。チーズ・チリ・マヨネーズなど複数種類をそろえており、それぞれに魅力や開発秘話が隠されています。
新商品の「リッチチーズソース」は複数種類のチーズを配合しており、少々の甘みもプラスして、濃厚かつクセなく食べられる味わい。先述のとおりチーズ信仰の強い韓国らしく、ソース開発には相応の苦労があったと市川さんは語ります。
「これは以前、韓国のチキン会社で作っていたソースで、3種類のチーズが入っています。チーズの風味を特に濃く感じられる味付けにしていて、現在もさらに改良するべく新バージョンを開発中です」


同じく新商品の「マンゴーチリソース」は甘みより一瞬遅れてやってくる、唐辛子のスパイシーさが見た目以上に強烈!特にプルコギとの相性が抜群です。前身となった「ハニーチリソース」をより改良したもので、これでも韓国本国のソースに比べればマイルドにローカライズしているのだとか。
「トリュフマヨソース」は酸味の光るマヨネーズ味にトリュフのスモーキーさが加わり、ビールやアルコール類とも合いそうな大人の味わい。
「これらのソースは韓国と日本でほぼ同じものをご提供しています。韓国で製造したものを、本社で一個ずつパック詰めして、冷蔵コンテナで日本に運んでいます。外に見えている華やかさとはギャップがありますが、何とか頑張っていますね」
今後は大都市圏だけでなく、地方などでも店舗展開を予定しているとのこと。日韓スタッフの努力や心遣いに支えられた、「韓流ピザ」のさらなる活躍に期待です。


Half Saints BAKES(ハーフセインツベイクス)
フィリピン・マニラ発のフードブランド「Half Saints」の理念を受け継ぎ、東京ドームシティ内にオープンしたベーカリー。パイ生地を使用した名物の「パフピッツァ」のほか、フォカッチャ、サンドイッチ、スイーツなどを販売しています。
Half Saints BAKES(ハーフセインツベイクス)
- 住所
- 東京都文京区春日1-1-1 東京ドームシティ ラクーアビル1F Deli&Dish内
- 電話
- 03-6824-5751
- 営業時間
- 10:00~9:00
- 定休日
- 年中無休

本国フィリピンで大人気!多国籍のフュージョンスタイル


「Half Saints BAKES」はピンクの壁面がやわらかな印象の、テイクアウト販売専門店。開店直後の朝10時にお店を訪れると、レジ横のショーケースにシグネチャー・アイテム「パフピッツァ」のほか、焼き立ての「フォカッチャ」や焼き菓子などが並んでいました。
「『Half Saints』はマニラに本店のレストランがあり、フィリピン料理や、南米、フレンチ、イタリア、日本料理などをフュージョンさせたメニューを提供しています。ソースなどは本国と全く同じレシピを使用している商品もあります」
そう語るのは、日本で「Half Saints BAKES」を運営する株式会社コノッドの矢野さん。フィリピン本店「Half Saints」の共同創業者であるクリスティン・ロケさんとジョー・アルシアガさんは、さまざまな国を巡って体験した味覚からインスピレーションを得て、フィリピンを含む多国籍な食文化を合体させてメニュー・レシピを開発しているそう。
「Half Saints」はアメリカのグルメ雑誌『EATER』で「2023年マニラで行くべきベストレストラン38」に選出されたこともある人気のレストラン。素材にもこだわり、野菜・果実のコンフィやソース類などの食材は店舗で仕上げた自家製のものを使用。こうしたスタイルは日本の「Half Saints BAKES」にも受け継がれています。


パフピッツァ4種のルーツは「家庭の味」
「Half Saints」創業者のひとり・クリスティンさんはフィリピンのマニラ出身。5人兄弟姉妹の2番目として育ち、年下の弟や妹の面倒を見ながらふるまった家庭料理がレシピ作りのきっかけで、なかでもパイ生地のピザは「パフピッツァ」の名称でHalf Saintsのメニュー4種類の原型となっています。
使われているパイ生地はクロワッサンに近くサクサクで、食べやすさと食べごたえが両立した味わいが魅力。マニラ本店では中力粉で作ったパイ生地を、天候によって保存温度を微調整したりと管理を徹底しています。繊細なパイ生地と具材のバランスも配慮しており、パイ生地の美味しさを最大限引き出すオリジナルレシピです。日本でもOEM製造ながら、こうした本店のパイ生地を再現できる素材にこだわっています。
「クワトロフロマージュ」はイタリアのブルーチーズ(ゴルゴンゾーラ)にモッツァレラ、パルメザン、クリームチーズをブレンドした人気商品。カリカリに焼かれたチーズのコクを、ほのかな甘味と強めな酸味の自家製オレンジコンフィが引き立てており、ワインにも合う一品です。
「ラタトゥイユ」は本国フィリピンのレシピをほぼそのまま採用。トマトを煮込んだマリナラソースと自家製ジェノベーゼで、みずみずしいズッキーニ・ナス・トマトを包み込み、自然の味が感じられます。


同じくフィリピン版そのままのレシピで、本国でも日本でも大人気というのが「エリンギゴートチーズ」。まろやかでクリーミーな山羊乳を原料としたゴートチーズの酸味が、歯応えあるエリンギのガーリックバターソテーに絡まり、仕上げに黒いバルサミコグレイズがふりかけられています。
「生ハムとトマトコンフィ」は日本オリジナル。生ハム・ハモンセラーノに自家製のチェリートマトコンフィ、オレガノをトッピング。鮮やかなオレンジ色のペーストはピメント(赤ピーマン)をオーブンで焼いてマリネにし、パルメザンチーズと混ぜたスプレッドで、トマトコンフィやハムと合わさって、とても濃厚な味わいです。
「夕方以降にいらして、お酒のお供や翌日の朝ごはんとして買っていかれる方も多いです。冷めてもおいしいですが、トースターで1~2分温めればおいしく召し上がっていただけますよ。生ハムがのっているものは、生ハムに火が入らないように一旦取ってから、ピザだけ温めるのをおすすめします」


高品質チョコレートを使った「スイーツパフピッツァ」も構想に
現在販売されている4種類の他にも、新しいパフピッツァの構想があるとのこと。キーワードは「スイーツ」です。
「以前はカスタードとココナッツクリームを使ったスイーツ系の商品もあったのですが、他のメニューを充実させたい関係で現在は休止しています。でも、パフピッツァはスイーツ系も美味しいので、ぜひまた作りたいですね」
「Half Saints BAKES」ではパフピッツァ4種類やフォカッチャ9種類以外にも、北海道産のブルーチーズ&クリームチーズ&小麦粉を使用した日本オリジナルの「クラウドクッキー」など、さまざまなスイーツメニューを販売。ピザ類に並ぶ人気商品となっています。


また、2017年の初登場からフィリピン本国で大人気の高品質チョコレートブランド「AURO(オーロ)」の商品も販売されています。大阪万博内のフィリピンパビリオンを除けば、日本国内ではここだけでの販売という貴重なチョコレートですが、こちらを使ったチャンククッキーも人気です。
「マニラ本店では、AUROチョコレートを使った、とても味わい深いチョコスプレッドも出しています。ぜひ甘いパフピッツァのレシピに取り入れて出してみたいと思います」


Pizza 4P’s(フォーピース)東京店
ベトナムで日本人オーナーが2011年に開業させたピザレストラン「Pizza 4P’s」が、港区・麻布台ヒルズ内に2023年オープン。素材へのこだわりを徹底し、自家製チーズや野菜、ハーブなどをふんだんに使用しています。
Pizza 4P’s(フォーピース)東京店
- 住所
- 東京都港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズ ガーデンプラザD 1F
- 電話
- 03-5843-8555
- 営業時間
- ランチ11:00~14:00 , ディナー 17:00~21:00
- 定休日
- 不定休

ピザを通じてお客様が「自然」や「生産者」とつながるお店


「Pizza 4P’s」東京店があるのは麻布台ヒルズ・ガーデンプラザD1階・東側の一角。予約はなんと1ヶ月待ちの人気店です。
店内は壁や床、テーブルや椅子、照明やインテリアに至るまで、高品質かつ温かみあるナチュラルテイスト。これらはほぼ全て「Pizza 4P's」東京店のため特注されたオリジナル品だとか。しかも、これらは全て製造した国内外の職人・企業・アーティスト、および素材そのもののバックストーリーを宿しています。
「例えば木工品や木質のインテリアなら、日本の環境・生態系を維持するために使うべき木があります。日本国内なら岐阜産の杉など針葉樹を使っていて、産地証明のためにその木の競りにも参加して、自分たちで素材のルーツを確かめてから、可能な限り自然でサステナブルなものをそろえていますね」
そう語るのはブランドディレクターの久保田さん。「Pizza 4P’s」は地球・人・自然すべてが繋がっており、それを意識することで他者への思いやりや感謝が育まれるという「Oneness(ワンネス) Earth to People」をコンセプトとしています。
「Pizza 4P’s」ではベトナムや日本など店舗のある地域ごとにインテリアやメニューをカスタマイズし、ピザを通じて自然の豊かさや自然保護への意識を促しています。そこには料理の素材を作っている一次生産者にも興味を持ってもらい、生産者と店舗での互助を盛り上げていく狙いがあるのだとか。
「一次生産者の方をリスペクトして、互いの良さを活かしながら、共通の課題解決を目指しています。僕らは全て地球の恵みから食材などを得ていて、それに一番長く触れているのが一次生産者ですから。僕らのレストランを通じて、そういう人達の取り組みを伝えていく必要があるんです」


自家製ブッラータチーズが驚きのおいしさ!
「Pizza 4P's」でメニューの原点となっているのが「4P's シグネチャー ブッラータ、生ハム、ルッコラ since 2013」です。ピザの中央にトッピングされているのは、同店を象徴する食材とも言える、チーズルームで作られた自家製「ブッラータチーズ」。ナイフをスッと差し込むと、中からモッツァレラと生クリームがとろり。それをピザと一緒に楽しむメニューです。
「このチーズ製造も、トレーニングしたベトナム人のスタッフが行っています。チーズを製造した際に出てくる乳清(ホエイ)という液体を応用して、レモンサワーなどのメニューへ活用しています」
ベトナムで使用しているチーズは、ベトナム中部の自然豊かな高原都市・ダラットの工房で製造。東京店では生乳の品質や環境保護の姿勢などが高水準な、千葉県館山市の須藤牧場をパートナーとしています。
東京店用のチーズは店舗入り口正面に構える「チーズルーム」で日々製造されており、お客様も製造工程を間近に見ることができます。現在は店舗消費分のみの製造ですが、将来は館山に新しいチーズ工房を建て、一般消費者や全国のレストランに向けて販売していく予定だそうです。
「生乳の生産地に工房を建てることで日本の生乳の消費量向上にも貢献できますし、店舗・お客様と生産者の繋がりを作るコンセプトにも合致しています」


また、ピザ生地に使用している小麦粉は北海道産の全5種の小麦粉を緻密な配合でブレンドし、非常に科学的なアプローチで開発されています。
「生地の配合は成分やタンパク質、灰分などを細かく出していって、完成するまで100パターン以上が考えられる中で試食と分析を繰り返して、歯切れの良さや食べやすさ、日本人に合った甘さ・軽さを追求しています。そこから発酵度合いや水分量などをさらに決めていって、理想のピザ生地を作り上げていきました」
実食をすると、ブッラータチーズは軽やかな味わいで酸味は抑えられ、そのぶん素材本来のフレッシュなミルクの味わいが濃厚で驚かされます。あわせてトッピングされているルッコラの苦味と非常に相性が良く、試行錯誤から生まれたというピザ生地も、サクサク食感で小麦の風味が香ります。
そのほかのピザにトッピングしてあるハムや野菜なども、具材全てが味・品質・環境性を徹底的にこだわり選ばれたものばかり。一般的なピザのイメージとは違う、繊細な自然そのものの味です。「Oneness」の理念は店舗全体から、ピザの味わいにまで浸透しているのが感じられます。


一次生産者と交流できるツアーも開催
このほか、「Pizza 4P's」では定番スタイルの「自家製モッツァレラのマルゲリータ」、モッツァレラ・タレッジオ・ブルーチーズ・パルメザンを組み合わせた「4 Cheese」などのピザメニューを用意。なかには「すじ青海苔とおかひじき あさり」「鮭の西京焼きと4種のきのこ」といった日本オリジナルメニューもあり、特に「すじ青海苔」は東京店で「シグネチャー」に次ぐ2番人気だとか。


もちろん、ピザ以外の料理やデザートなども全てが自然を感じさせる力作ぞろい。これらは全て、食を通じて豊かな自然や食材、それを作る人達へ自発的に思いを馳せてもらうためだと、久保田さんは語ります。
「基本的には、お客様が僕らから何か気づきを得て行動が変わり、それによってより良い循環が生まれることが理想です。メッセージの押し付けでなく、自発的に色々なことを感じていただく環境づくりに力を入れています」
その一環として、現在では「Oneness」を表現している一次生産者「Onenessパートナー」の元に消費者が実際に訪れる「Tour(ツアー)4P’s」も開催。こちらも大好評とのことです。
「埼玉県小川町で不耕起農法(畑を耕さないまま作物を栽培する有機農法)をされている農家の方に感銘を受けて、その背景や詳細を知れるプログラムを企画しました。お客様が楽しみながら学べる内容なので、店舗の理念を知ってもらうためにも、今後も続けていきたいですね」


本国の食文化を反映した韓国発のピザ、飾らない家庭の味を多国籍テイストで昇華させたフィリピン発のピザ、店舗コンセプトと素材の良さを徹底して磨き上げたベトナム発のピザなど、「アジアン・エスニック」という枠組みにも縛られないメニューづくり・お店づくりが輝いていました。他店との差別化をはかり、お店ならではの個性や長所を見つけるうえで、参考になる点は数多くありそうです。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2025年06月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。