近年、女性を中心に人気を集めているスコーン。「紅茶とともに楽しむ英国菓子」の枠を超え、多彩な進化を遂げています。バターの代わりに生クリームを用いてリッチな味わいにする、四季を映した日本らしいアレンジ……。今回はスコーン専門店2店舗を取材し、それぞれの個性と発想について伺いました。
キィニョン横浜江田店
東京・国分寺のちいさなお店から始まったパン屋「キィニョン」。現在は東京都内に8店舗を展開しています。そんなキィニョンが2025年7月、神奈川県にブランド初となるスコーン専門店「キィニョン横浜江田店」をオープンしました。
キィニョン横浜江田店
- 住所
- 神奈川県横浜市青葉区荏田北3-1-6 江田スクエアビル
- 電話
- 045-507-8122
- 営業時間
- 11:00~18:00(イートインL.O. 17:00)
- 定休日
- 火曜、年末年始

バター不使用、生クリーム仕立ての新感覚スコーン


閑静な住宅街が広がる東急田園都市線・江田駅から徒歩2分。街路樹が立ち並ぶ大きな通りにキィニョン横浜江田店は位置しています。横浜江田店は、キィニョンブランドの商品のなかで一番人気というスコーンの専門店です。同店のスコーンの特徴について、店長のカッティ友佳子さんはこう話します。
「一般的に、スコーンはバターを使用してつくりますが、キィニョンではバターの代わりに、北海道産の生乳から作られた純正生クリームを贅沢に配合しています。そのため、しっとりとした食感と、生乳ならではのコクを兼ね備えた風味豊かでリッチな味わいを楽しんでいただけます」

生クリームの配合率はスコーンの種類にもよりますが、約50%に相当するのだそう。しっとりとした食感のため、ジャムやクロテッドクリームをつけずにそのまま食べても美味しいといいます。
「水分量が多いので、ポロポロと崩れたりしないのも特徴です。リベイクしてもいいのですが、冷めたままでも楽しんでいただけるスコーンなんです」
店内にはスコーンの試食も用意しています。お客様からは「これまでに食べたことのない食感」「こんなスコーン初めて」といった驚きの反応もあるそうです。
人気ナンバーワンは「マーブルチョコスコーン」
横浜江田店では、「プレーンスコーン」「マーブルチョコスコーン」「はちみつバタースコーン」「紅茶スコーン」という定番の4種類のスコーンに加え、「チョコバナナスコーン」「桃とクリームチーズのスコーン」などの季節のスコーンを3~4種類取り扱っています。
現在、もっとも人気なのはプレーン生地とカカオ風味の生地を織り交ぜたマーブルチョコスコーンです。カカオ生地にはバンホーテン社のココアを配合し、頬張ると口の中いっぱいに豊かなカカオの香りが広がります。最後にチョコチップも加え、カリカリとした食感もプラスされています。
「マーブルチョコスコーンは、ベースの白生地とカカオ生地をマーブル状に混ぜて焼き上げた商品です。混ぜすぎるときれいなマーブル模様にならないので、こちらの生地を仕込んでいるときはミキサーにかかりきりになってしまいますね」



カッティさんをはじめ、スタッフの人気ナンバーワンは、生クリームのミルキーな風味をダイレクトに感じられる定番のプレーンスコーンです。
「やっぱり、プレーンは何度食べても食べ飽きません。そのままでももちろん美味しいのですが、お客様のなかにはベーコンや目玉焼きを焼いて、朝食として一緒に召し上がる方もいらっしゃいます。当店のスコーンは常温で3日間、冷凍で1カ月間保存できるので、まとめ買いする方もいるんです」
フレーバーごとに変わる生クリームの配合バランス
スコーン生地に使われている材料は、小麦粉、生クリーム、グラニュー糖、ベーキングパウダー、塩が基本です。粉は色と風味のバランスに優れたパン用粉の「カメリヤ」を採用しています。
一方で配合はフレーバーによってさまざまです。たとえば、はちみつバタースコーンは生地の生クリームの配合を減らし、はちみつの風味を引き立てています。生地にはコーングリッツとハニーバターソースを加え、さらに焼成時にはちみつを絡めたパン粉をふりかけて焼き上げます。
「季節限定の『桃とクリームチーズのスコーン』も、生地に桃のピューレをふんだんに使用しているため、生クリームの量を減らしています。この商品は特に、ひとまとめにするのに苦労します。当店のスコーンは、最終的に焼く前の生地はほっぺたくらいの固さになるのですが、桃とクリームチーズのスコーンはだれやすいので、オーブンの一番上でなるべく短時間で焼き上げます」


キィニョンのスコーンは、ころんとした丸いフォルムも特徴です。一方で、生クリームをふんだんに使った生地は水分量が多く、きれいな形にするのには工夫を要します。
「焼き上げた際に、角はシャープに立ちながらも、側面は丸く膨らむようにしています。スコーンの高さが出ないと、食感も変わってしまうので、仕込みの際は注意を払っています。材料をミキサーにかけた直後は、『本当にまとまるのかな?』と思うようなべったりした生地なのですが、ある瞬間から生地がボウルか剥がれるようになるんです。そのタイミングでミキサーから下ろします。こねすぎても高さが出ないし、こね足りないと生地がだれてうまく膨らみません」



店内にはイートインできるスペースを8席用意しています。コーヒーは、東京都文京区のコーヒー専門店「カリオモン」から仕入れるなど、スコーンに合うドリンクを提案しています。
「当店でお出ししているコーヒーは酸味が少なく、どのスコーンにも非常に合うと思います。江田店はまだオープンしたばかりなので、今後登場する新メニューなど、お客様の反応が楽しみです」
tom's SCONE Japanesque(トムズスコーンジャパネスク)
東京都・杉並区の西荻窪駅から徒歩7分のところに店を構える「tom's SCONE Japanesque」。周囲には飲食店や雑貨店、アンティークショップなど、個性が光るお店が並んでいます。そうした周辺環境のなか、同店が提案しているのは日本の四季と和素材を重ね合わせた、“「和」のスコーン”です。
tom's SCONE Japanesque
- 住所
- 東京都杉並区西荻北4-4-1 KITAYONビル 3F
- 電話
- 非設置
- 営業時間
- 12:00〜スコーン売り切れまで
- 定休日
- 不定期で営業(営業日はInstagramにて公開)

四季と和素材を映す“「和」のスコーン”


「当店のスコーンは、和の食材や旬の果物、雑穀を組み合わせることで、菓子でありながら、一つの料理のような複雑さとみずみずしさを感じてもらえるようにしています」
そう話すのは、tom's SCONE Japanesqueを手掛ける店主・阿久津真純さん。同店は2022年のオープン以来、ミカンやマスカット、イチゴといったフルーツだけでなく、もちきび、味噌、甘酒などさまざま食材を組み合わせ、四季折々のスコーンを提案してきました。めずらしい「和」のスコーンが人気を呼び、現在では全国各地の百貨店の催事でも出店を行っています。
「昔から、スコーンはもちろん、パンやクッキーなど小麦粉を使ったお菓子が大好きでした。その一方で、お店を立ち上げると決めたとき、年齢も30歳を超えていたので、『今後も長きにわたってスコーンやお菓子を食べていけるように、体にいいものをつくりたい』と考え、生まれたのが当店のコンセプトです」
阿久津さんがめざすのは、美味しいだけでなく、健康もサポートできるようなスコーンです。一つのスコーンからたくさんの栄養をとり入れられるよう、野菜や果物、雑穀など豊富な食材を使用しています。食材はその時々に阿久津さんが「美味しい」と感じるものを取り入れるので、毎年同じ商品が登場するとは限らないのだとか。
「人気が高まって定番化する商品もありますが、基本的には、私自身がその年に『食べたい』と思ったものをお出しするようにしています。去年販売していたものを今年は提供しないけれど、来年はつくるというケースもあります。そのため、お客様に『来年もこの商品を食べられますか?』と尋ねられても、はっきりお伝えできない側面もあって……。“一期一会”として味わっていただければうれしいです」
栄養にも配慮した「もちきびとハトムギのプレーン」
そうしたなか、同店の定番として提供しているのが、ハトムギ粉と小麦粉をブレンドし、もちきびを加えた「もちきびとハトムギのプレーン」です。
「プレーンは英語の『シンプルな』と意味するように、そのままの味わいのものを指すことが多いと思います。当店も一時期は粉と油分や水分のみの、いわゆるプレーンスコーンを販売することも検討していました。ですが、当店は常に様々な種類のスコーンをお出ししています。あるときから、『もちきびとハトムギのスコーンこそ、和素材を使用していて、身体にも優しいtom's SCONEらしいプレーンスコーンなのでは』と考え、この商品を“プレーン”として定番化することにしたんです」
そのほかにも、過去に雑誌に掲載された「干し柿ラム酒のホワイトショコラ」は、冬季の定番スコーンとして店頭に並ぶことが多いそう。
「長野県・市田柿の干し柿をラム酒に漬け込み、干し柿がふくよかになってきたら生地と混ぜ合わせています。食感にコントラストをつけたかったので、生地には全粒粉も配合しています」


同店ではアルコールを使用する際、あらかじめドライフルーツなどに漬け込むようにしているのだとか。そうすることで、焼成の際にアルコールは揮発させながらも、香りが残って味わいに奥行きのあるスコーン仕上がります。
「11月半ばくらいから、新物の酒粕が出回り始めます。昨年、その酒粕とホワイトチョコレート、チーズを合わせてテリーヌにし、スコーンでサンドしてみたら美味しくて。今年もお出しできたらと思っています」
素材を選び抜くことで広がる多彩な食感と風味
同店は、生地のベースとなる材料も使い分けているのが特徴です。たとえば、粉も北海道産小麦粉をベースに、米粉、そば粉、きな粉、アーモンドパウダーなどを商品ごとに配合を変えて使用しています。
「スコーンそれぞれが違う粉のバランスでできています。小麦粉100%でつくるものもありますが、それはむしろ少数派です。粉の種類によって、サクサク、しっとり、ほろほろと食感がまったく異なるので、食べ比べても楽しいと思います」
砂糖も、きび砂糖や和三盆糖、黒糖、グラニュー糖と、素材や仕上がりに合わせて変えています。油脂も、バターを使用する場合もあれば、ごま油など植物性の油を活かすスコーンもあり、商品ごとに最適な組み合わせを模索しています。
現在、レシピは「数えきれないほどある」と阿久津さん。2025年夏には生姜とシャインマスカットを合わせたさわやかな味わいが特徴の「新生姜とシャインマスカット」を開発しました。
「生姜の甘辛さと、酸味のないブドウであるシャインマスカットを組み合わせてみたいと思ったんです。でも、生姜の味だけが主張してしまったら単調だなと感じ、全体を調和してくれるようなチーズクリームもつくりました。また、シャインマスカットもフレッシュな状態で挟むより、一緒に焼き込んだほうが当店らしいスコーンだなと考え、そのようにしています」


最後に、「tom's SCONE Japanesque」という店名の由来についても伺いました。
「『tom』は、接客・販売を担っている夫のあだ名なんです。響きが可愛いなと思い、店名に採用しました。『Japanesque』というのは、『Japan』や『Japanese』と異なり、“外国人の目に映るような日本”を意味するそうです。当店のスコーンも“純日本”というよりは、いろんなものを組み合わせて、驚きや楽しさを表現したい。ちょっぴり“おもしろい日本”を心がけています」
現在、2店舗目も計画中で、2026年のオープンをめざしているとのこと。今後生まれる新たなスコーンにも、期待が高まります。


2店の取材から浮かび上がったのは、伝統菓子を自由に解釈しながらも、スコーンの魅力をしっかりと活かした商品づくりでした。同時に、ジャムやクロテッドクリームと一緒に食べるのはもちろんのこと、「そのままで食べても美味しいスコーン」がトレンドということがわかりました。皆様のお店でも、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2025年9月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。
