ラーメンやうどんに並ぶ“汁系麺料理”として、スープパスタが注目を集めています。具材やスープの組み合わせ次第で、洋風はもちろんのこと、和風やアジアテイストにも展開できる自由度の高さが魅力です。さらに、麺のアルデンテ感やスープとの絡みなど、専門店ならではの工夫も加わり、唯一無二の一杯が次々と生まれています。今回は都内を中心に個性豊かなスープパスタを提供する3店舗を取材し、各店のこだわりやメニュー開発について伺いました。
ホームズパスタ
東急田園都市線渋谷駅から徒歩3分、東急プラザ7階にある「IVO ホームズパスタ トラットリア 渋谷Part2」はスープパスタのパイオニアともいえる名店。パスタ激戦区と言われる渋谷で、女性客を中心に多くの層から支持を受けています。
IVOホームズパスタ渋谷 part2
- 住所
- 東京都渋谷区道玄坂1-2-3 東急プラザ渋谷 7F
- 電話
- 050-5589-4337
- 営業時間
- 11:00〜22:00
- 定休日
- 施設休館日に準ずる

スープパスタの三か条『アツアツ・ナミナミ・アルデンテ』


1986年に渋谷で創業した「ホームズパスタ」は、94年に新宿で2号店をオープン。その際にフレンチの技術を駆使して開発したのが、日本のスープパスタの元祖ともいえる名物メニュー「絶望のスパゲッティ」でした。現在、「ホームズパスタ」のパスタメニューの中でも60~70%のシェアを誇るその人気の秘密を、ホームズパスタを展開している東京レストランツファクトリー株式会社取締役営業本部長・加賀朗生さんにお聞きしました。
「『絶望のスパゲッティ』が人気を集める背景にはいくつかの要因があります。まず、ニンニクと唐辛子でパンチを利かせていること。一度食べてからしばらくすると、また食べたくなるようなクセのある味わいです。次に具沢山であること。濃厚トマトクリームベースのソースに、キノコベーコンソテーをたっぷりと盛り込んでいます。そしてもうひとつは、当店のスープパスタメニューの柱ともいえる、大事な三か条を大切にしている点です」

ラインナップの豊富なスープパスタメニューをつくる上で外せない三か条。それは「アツアツ・ナミナミ・アルデンテ」です。
「湯気とともに香りが立つくらいにスープは熱く!そしてそのボリュームは皿からこぼれるくらいにナミナミと迫力たっぷりに!スープとよく絡むざらついた麺は、確かな食感が残るアルデンテで!味覚はもちろんのこと、嗅覚・視覚でも当店のスープパスタを楽しんでほしいですね」
パスタの国内市場規模1%を占めるための試み

「絶望のスパゲッティ」のほかにも、海の恵みをふんだんに盛り込んだ贅沢な味わいの「海の幸とトマトのスパゲッティ」や、貝のエキスを抽出した出汁で旨味を利かせたスープパスタ版ボンゴレビアンコ「アサリの塩味のスパゲッティ」など、様々な味わいのスープパスタがメニューに並びます。
「当店はワインショップ『ENOTECA』とのコラボのもと、それぞれのスープパスタに合うワインも提供しています。たとえば『絶望のスパゲッティ』には、繊細な味わいでブドウの甘みのあるスパークリングワイン『ソリエーラ・ランブルスコ・グラスバロッサ・ディ・カステルヴェトロ』。『海の幸とトマトのスパゲッティ』には、フレッシュな果実味のある赤ワイン『バロン・フィリップ・ロスチャイルド・ピノ・ノワール』がオススメ。特にディナータイムでこれらのマリアージュを楽しむ女性客も多いですね」
そのほか、追い粉チーズや唐辛子とオリーブオイルをブレンドした特製オイルを加えることで味変も楽しめます。
都内のほか、全国規模でのフランチャイズ展開を始めている「ホームズパスタ」。従業員に接客のノウハウを伝授するコンシェルジュトレーナーを各店舗に配置して接客スキルを高めていくなど、今後も日本スープパスタ界の先駆けとしてパスタ業界を牽引する存在を目指しています。
「2022年時点でパスタを販売するレストランやカフェの市場規模は7,000億円です。そのなかで1%でもシェアを占めることができれば売上は70億円。そのシェアに近づくために、日々努力と工夫を重ねています。最近、スープたっぷりのパスタを他店舗でも見かけることが増えてきましたが、私たちは大歓迎と受けとめています。競合が多い方がお互いに切磋琢磨しあって市場が成長していきますからね」


ワイルドレッドパスタ
東京メトロ半蔵門線の神保町駅から徒歩2分の場所にある「ワイルドレッドパスタ」は大盛りパスタ専門店。2024年3月にオープンした芝大門店で人気を集めた同店が、2025年4月に2号店をオープンしました。ビジネスマンや学生を中心に連日、行列をつくっています。
ワイルドレッドパスタ
- 住所
- 東京都千代田区神田神保町3-2
- 電話
- 080-2926-4440
- 営業時間
- 11:30~15:00/17:00~21:00
- 定休日
- 日曜日

日々微調整を重ねる、クリアな味わいの看板メニュー「からいトマト」


神保町駅近くの「ワイルドレッドパスタ」は、食べ応えのある麺量と皿から溢れるソースが特長のパスタ専門店。並盛が200g、大盛は無料で300g、+200円の野郎盛りは600gとボリューム満点のメニューが目を引きます。牛丼チェーンやラーメン店のように気軽に入りやすく、がっつりと美味しいパスタが食べられる同店は、男性客を中心に多くのリピーターを獲得しています。看板メニューは旨さと辛さを両立した「からいトマト」です。
神保町店で店長を務める清水龍さんは「からいトマト」のこだわりと魅力の次のように答えてくれました。
「パスタづくりで大切にしているのは、毎日でも食べたくなるようなクリアな味わい。たとえば『からいトマト』は、トマト缶のフレッシュな味わいと、ぐっと煮詰めた味わい深さを両立させることを心がけています。ただ、農産物であるので缶の中身は日によって水分量にかなりの差があります。その時々で細かに味見をしながら、濃度、甘味、酸味、辛味を微調整して、日々変わらぬ味を提供しています」

パスタで使用するのは太さ1.60㎜の乾麺。一人前ずつ茹でて、アルデンテで提供しています。
「重視しているのは、提供時間がかかりすぎないこと、ソースとよく絡むこと、そして時間が経過してものど越しや歯ごたえを損なわないことです。このちょうどいい塩梅を見つけるのには苦労しました。ただ、現在も『もっといい麺はないか』と探求しています。もっと時間を短縮して、もっとソースと絡ませることができれば、快適においしいパスタを提供できますからね」
ボリュームたっぷりのソースを最後まで味わってもらうために

看板メニューの「からいトマト」以外にも、加熱した明太子、生の明太子、あぶり明太子の3種類の味が楽しめる「明太子クリームパスタ」や、贅沢に煮干しを使った「煮干しクリームパスタ」なども人気メニューです。絶妙な火入れで柔らかな食感と芳醇な味わいを実現したローストポークや、魚介系のパスタと相性のいいムール貝など、トッピングも充実。また、追い飯としてバターライスを注文できるのも「ワイルドレッドパスタ」ならではの試みです。
「当店のパスタは『スープパスタ』というよりも『ソースパスタ』なんです。スープはそれ単体で食べることができますが、ソースは何かと一緒に食べる必要があります。当店自慢のソースはボリュームがあるため、麺を食べ終えても余ります。そこでおすすめなのが、国産米を使用したバターライスの追い飯です。ソースに混ぜれば、バターの風味が加わって違った味わいを楽しめます。神保町店では若者にお腹いっぱいになってほしいという願いから、学生には無料で追い飯を提供しています」

イタリアンの概念を飛び越えた『男飯』ともいえるメニューを提供する「ワイルドレッドパスタ」。今後はさらなる多店舗展開の期待が高まります。
「芝大門店では平日はサラリーマン、休日は家族連れも多い環境でしたが、神保町店ではやはり学生にどれだけ支持されるか。まだオープンしたばかりでお客様の好みを探っている段階でもありますが、確かな手ごたえもあります。今後もさまざまな場所で店舗展開をしつつ、お客様に愛される店づくりとパスタづくりに試行錯誤を重ねて、少しずつ規模を広げていきたいです」
スプスパ
近くには東京スカイツリーも鎮座する東京の下町、江東区石島に店を構える「スプスパ」は、近隣の住人から愛され続けているスープパスタ専門店。充実したスープパスタメニューのほかに、ホテルレストランで経験を積んだ店主のつくるおつまみメニューも充実している名店です。
スプスパ
- 住所
- 東京都江東区石島14-7 今泉ビル1F
- 電話
- 03-5683-0178
- 営業時間
- [ランチ]11:00〜14:30/[ディナー]17:00〜21:30
- 定休日
- 日曜日

和洋中の垣根を超えた未知の味わいが楽しめる「今週のスパ」


スープパスタ専門店「スプスパ」の店主・元矢学さんは、フランス料理店やホテルなどで料理人としてのキャリアを積み上げた人物。「オンリーワンの味をお客様に届けたい」という思いから13年ほど前に「スプスパ」をオープンしました。
卵黄とチーズの甘みが特徴的な「カルボナーラ スープスタイル」や、具沢山の「魚介類のパスタ ペスカトーレ」など、バリエーション豊かなスープパスタメニューの共通点は、スープが主役であること。すべて1,100円であること。太さ1.78㎜の乾麺を使用していること。そして、独自に開発したオイルを使用している点です。
「当店はオリーブオイルと比べて安価に仕入れられるサラダ油に、私のフレンチでの経験を掛け合わせた自家製オイルを使用しています。ニンニク、香料を入れて弱火で2~3時間弱火でじっくりと炒め、パンチのある味わいを実現しました」

人気のメニューは「今週のスパ」。夏には冷製メニューも販売しています。たとえば「冷製クラムチャウダー」は、ジュレ仕様でぬるくなることなく、味が薄まることもなく、最後まで冷たさも楽しめる逸品です。
「これまで、けんちん汁やロシアのご当地料理『ソリャンカ』など、和洋中の垣根を超えた様々な料理とスープパスタをミックスしてきました。その都度、メニューも手づくりしています。当店は近隣のスーパーで仕入れをしていて、店頭に並んだ旬の食材から着想を得て、週替わりの一皿に落とし込んでいます。『今週のスパ』を楽しみに来店するリピーターも多いんですよ」
自家製のキムチを使った唯一無二のスープパスタ
「スプスパ」の名物メニューのひとつとして人気を博しているのが自家製キムチを生かしたスープパスタです。
「これまでに時間をかけて試作を繰り返してきた自家製キムチは、味・食感共に私の大好きな浅漬けに近づけています。4週間ほど熟成させると酸味が出てきて、そこに火を入れることで、うまみを引き出すことができます」
「自家製キムチのクリームスープ」は、クリームの優しい甘みとガーリックオイルの香ばしさ、そしてキムチの酸味と辛味が混ざり合った、味わい深い逸品です。
また、半ライスが無料サービスであるのも、お客様にとってうれしいポイントのひとつです。



「当店のスープパスタは、あくまでスープが主役。スープを味わってもらうために、パスタを食べて、それからライスを入れてリゾット感覚で味わって、当店自慢のスープをじっくり楽しんでほしいですね」
リピーターの心を掴むメニューの数々。その味を、今後も守り続けていきたいと元矢さんは語ります。
「シェフとしてホテルに勤務していたころは、レシピの考案、味見、若手シェフの教育が中心でしたが、独立後は0から100まで自分で作り上げた味を提供できるようになりました。自分の手で作った料理でお客様を喜ばせる、その一点をこれからも大切にしていきたいです」
今回取材した3店舗は、それぞれにまったく異なるスタイルでスープパスタを提供していました。元祖としての伝統を守りながらも市場拡大を目指す店、大盛りや追い飯で新しい需要を生み出す店、フレンチの技術や自家製オイルで独自性を打ち出す店。一方で共通していたのは、スープやソースと麺とのバランスを徹底的に追求している点でした。ラーメンやうどんに負けない“汁系麺料理”として、スープパスタはまだまだ発展の余地を秘めています。今後も多様なスタイルが生まれ、市場の可能性を広げていくことでしょう。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2025年08月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。
